神託

聖堂の奥、祭壇まで皆は無事辿り着く。
祭壇には小さな石が奉られてある。光はその石から溢れているようだ。

「あれがクルシスの輝石か?」
「そうだよ。私、あれを握って生まれてきたんだって」

コレットの来訪を待ち受けたように、天から石とは違う光が降り注ぐ。
光と共に、白き翼の生えた男が降臨した。

「な、何だ? あいつは……」
「あれが……天使だろう」
(天使……)

どうしてだろう。レイラは初めて見る筈の天使に強い既視感を覚えた。

「我が名はレミエル。マナの血族の娘コレットを新たな神子として天に導くクルシスの天使」

レミエルに呼応するようにクルシスの輝石が浮かび上がる。

「世界の中心で眠るマーテル様を目覚めさせる時が来た」

そのまま輝石はまっすぐにコレットの元へと向かう。
そしてコレットの胸元に、それを飾る台座と共に彩られる。

「今この時より、コレットは再生の神子となる。我々クルシスはこれを祝福し、シルヴァラントに救いの塔を授けよう」

その言葉通り、窓の外に目をやると、遥か遠くに、天へと伸びる塔が出現していた。あれが、救いの塔。

「再生の神子コレットよ。救いの塔を護る封印を解き、かの地に刻まれし天の階を上れ」
「神子は、確かにその任を承りました」
「よろしい。我らクルシスは、そなたが封印を解放するごとに天使の力を授けよう。そなたが天使として生まれ変わった時、この荒んだ世界は再生される」
「ありがとうございます。必ず世界を再生いたします」
「まずはここより南の方角にある火の封印を目指すがいい。彼の地の祭壇で祈りを捧げよ」
「はい。レミエル様」

これで儀式は終わりなのか、レミエルは天へと昇ろうとする。

「あ、待って! お待ちくださいレミエル様!」

それをコレットが引き止める。

「レミエル様は、本当にわたしのお父さ――」
「まずは火の封印だ。よいな? 我が最愛の娘コレットよ」

その言葉を聞いた途端、コレットの表情に喜びが宿る。

「お、お父様……やはり、レミエル様が私の本当のお父様なのですね!」
「次の封印で、また会おう。我が娘よ」

そう言ったレミエルの体はより輝き、天へと帰っていった。

(……ばかばかしい、茶番だ)

神託を見届けたレイラが真っ先に思ったことに自分でも戸惑ってしまう。
――でも、神子が天使の子供な筈がない。そう、“あの人”も言っていた――

「……ッ!」
「レイラ?」

頭痛がしてこめかみのあたりを手で押さえると、クラトスが訝しむ。

「何でもありません。ちょっと、疲れてるみたいです」
「……そうか。では、村へ戻るとしよう」

先にクラトスが。後に続いてコレット。そしてレイラも転送装置で元来た場所へと戻る。

村へと戻る道中、コレットがレイラに声をかける。

「レイラ、どうしたの?」
「……え?」
「何だか、辛そうに見えたから」
「私はいつも通りだよ? きっと、色んなことがあって疲れただけだから」
「そっか」

全く平気ではない。今だって緩やかだが、頭痛が続いている。だが、コレットを心配させる訳にはいかなかった。
クラトスに対して感じた言い知れない懐かしさや愛しさ。初めて見る筈の天使に対する既視感。そして、神託が終わった直後に真っ先に思った考え。
不思議なことばかりだけど、今はそれよりも大切なことがあるのだ。自分のことに構ってる場合ではない。レイラは思考を切り替えて村への歩みを進めた。

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