クリミア軍進撃 2

ベグニオンとデイン国境のトレガレン長城。今年初めての雪が降り注ぐ中、そこに奇襲をかけるべく準備を整えているクリミア軍の元へ飛ぶ。

「よぉ。いよいよクリミア軍としてデインに向かうんだってな」
「そっちも、国に帰るんだろう? 白鷺の兄妹も一緒に」

アイクが問えば、ティバーンはばつが悪そうに苦笑した。
リュシオンがついていきたいと言っている旨を話せば、アイクはしばし思案する。

「……折角会えた妹の傍にいてやらなくていいのか?」
「リアーネも、承知している」
「そうか。だったら、頼む」
「分かった。我が民の誇りにかけて、お前の力になることを誓う」

彼らは互いに頷き合う。

「先程も言いましたが、私は王子と共に参りますので。アイク、今までお前たちに狼藉を働いた鴉が共にいるのは不満かもしれないが……」
「いや、鴉の強さは身を持って知っている。それが味方につくなら心強い」

ミリアはその言葉に目を丸くする。何の迷いもなく、ミリアの同行を許すとは思わなかった。

「決まりだな。俺からも、護衛をつけよう。ヤナフ! ウルキ! クリミア軍に同行し、リュシオンを守れ」
「お任せください!」
「……勿論です」

流石にリュシオンがたじろぐ。ロライゼとリアーネを預かる上に、ヤナフとウルキを貸すのだから、そこまではしてもらえないと遠慮する。
だが、ティバーンからしたらまだ足りないくらいなのだと。リュシオンの気持ちを汲んで、こうも尽くしてくれている。

「……ティバーン。感謝します。心から……あなたに」

アイクは真摯な姿勢で、ティバーンに向き合う。

「フェニキス王、リュシオンのことは任せてくれ。クリミアを取り戻したら、必ず無事、フェニキスに帰す」
「その言葉を信じよう。これで、お前たちと鷹の民、鷺の民には深い絆ができた。もし、困った事態に陥った時は俺を呼ぶがいい。何があっても飛んでいこう。文字通り、な」

ティバーンはアイクにそう残し、リアーネと共にフェニキスへと帰っていった。
成り行きを見守っていたエリンシアが微笑む。

「思いがけず、強い味方ができたようですね」
「ああ……。ベオクとラグズ、獣牙族も鳥翼族も、俺たちと何ら変わらない。分かり合うことができる」
「はい。……私も、そう思います」
「じゃあ、今度こそ、出発だ。全軍、出撃!」

アイクの号令と共に、軍は奇襲を始めた。

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