クリミア軍進撃 3

長城に奇襲をかけ、兵を倒していく。
内通者を通じて、デインはクリミア軍の作戦を予め知り、兵を配備してある。

(だが、甘いな!)

にも関わらず、こちらの力量を侮っているのか、大した相手ではなかった。

そして、その時は来た。
鴉の部隊がクリミア軍に攻撃を仕掛けるべく飛んできたのを捉える。

「……来たか」

ミリアは存外冷静にそれを認識した。が、それを知らなかった他はそうはいかない。

「……おいおい、何やってんだ。あの馬鹿ガラスども」

ヤナフは呆れた様子。

「……デインについたのか? 信じられん……」

ウルキは驚き。

「……私だけでなく、ラグズをも裏切ったのか、ネサラめ……」

リュシオンは静かな怒りを募らせた。
ラグズ差別の激しいデインに味方することは、ラグズを傷つける行為に加担するも同然。

「…………」
「おい、お前、知ってたな! キルヴァスがデインについたって! 何で言わなかったんだよ!」

全く落ち着いた様子のミリアにヤナフが詰め寄る。

「知っていた。……言わなかったのは、悪かったな。とんとん拍子に事が進んでたから、言う間もなかったのでな」

鳥翼の民がクリミアについたのは戦いの始まるギリギリ。急に決めたことで、言うタイミングは本当になかった。

「だとしてもよ! 同胞を傷つけられるのかよ、お前!」
「……最初から、そのつもりだ。そうじゃなかったらクリミア軍に同行しない」

ミリアの物言いにヤナフは一瞬、言葉を失う。

「……そうかよ。後悔しても知らねえからな」

ヤナフはそれだけ言って、再び戦いに戻る。

「さあ……来るがいい」
「ミリア様……!?」

クリミア軍の中にミリアの姿を見たキルヴァス兵に一瞬動揺が走る。

「王がミリア様のことを捜していました」
「だろうな。私はクリミア軍につく。悪いな」

普通の兵ではミリアの相手にならない。力尽くで連れ戻したりなんてことは、ミリアにその意思がない限り叶わない。逃げるか戦うか、だ。
無謀にも戦いを挑んできた何人かのキルヴァス兵を堕とした時、アイクが声をかけてきた。

「……やっぱり、同じ鴉と戦うのは辛いだろう。あんたは下がっててくれ。その分の穴は俺たちが埋める」
「……たとえ見知った相手でも、敵として戦場に立ったなら、手心を加える必要はない。たとえどんな気持ちになっても、な。お前も傭兵なら、それがよく分かっているだろう?」

王を筆頭に国単位で雇われる鴉は同胞と敵対することなど普通ならないが、それでも前に雇われていた相手を別の雇い主の依頼で討つことなんてザラにあった。
傭兵なら、そんな考えが嫌でも染み付くものだと思っていた。

「……確かに、普通はそうかもしれんが……」

アイクはぽつりと、ただ呟いた。

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