クリミア軍進撃 5
「やっぱりな……てめえとはいつか、こうなる気がしてたぜ、アイク」
ヨファの前で見せた柔らかい雰囲気などおくびにも出さず、アイクに鋭い雰囲気で相対するシノン。それをアイクは複雑そうな眼差しで見やる。
そして、その腕を思いのままに振るい、シノンを斬りつける。
「ぐ……」
そのままアイクは倒れたシノンの傍らにしゃがみ込み、応急処置を施す。
それに驚いたようにシノンが身じろぐ。
「動くな、傷口が広がる」
「……なんのつもり……だ? はや……く……やれ……」
「…………」
アイクが剣を突き刺すことはない。
「……へっ……」
そのまま自嘲的な笑みを浮かべ、シノンは目を閉じた。
「シノンさん……」
「……大丈夫、生きてる。急所は外したのか」
「ああ」
「……手心を加える必要はない、と言った筈だが」
「そういえば、言ってたな」
ミリアは呆れため息をついた。そして、気を失っているシノンを見やる
「私が後衛に運んでやろう。とりあえずは捕虜扱いでいいな?」
「あんた……」
「ちょうど、将軍から撤退の命令も下されていたしな。そのついでにこいつを連れていく」
「……頼む」
「上に立つ者が軽々しく頭を下げるな。舐められても知らんぞ」
シノンを抱えあげ、後衛へと飛ぼうとした時、ヨファに呼び止められる。
「……あのっ、ありがとう。あのね、シノンさん、後衛に待機してるキルロイさんって人の所に連れて行ってもらえる? その人なら傷を治してくれるから」
「キルロイ、だな? 分かった」
ミリアはヨファの頼みに頷き、そのまま戦線を撤退していった。
「シノン!?」
後衛で、言われた人物を探そうとしたが、探すまでもなかった。向こうから来たからだ。
「デインに雇われていたようでな。アイクが景気よくぶった斬って、そのまま捕虜として捕まえて、治療を頼まれた。やってくれるか?」
「勿論です! でも、どうしてデインに……」
「さあ。気になるならこいつに直接聞けばいい」
キルロイに伴われ、捕虜収容用の天幕でなく、傭兵団の使う天幕へ連れていく。
無事、長城を落として、クリミア軍の初陣は快勝に終わった。
シノンはアイクに説得され再び傭兵団の一員として戦うこととなったと、後から聞いた。
現状、クリミア軍の不利には変わりないが、この勝利がきっかけに戦局が少し傾きそうだ、と思う。
気がかりがなくはないが、自らの選択は正しかったと、そうも思わせるものが傭兵団にはあった。