託されしもの 2
デインが軍を構えている地点まで到達した。ヤナフが千里眼で軍の様子を見渡す。
「なあ、クリミアの大将。前方に、かなりの数の部隊がいるぜ。デインの連中と……また、キルヴァスの鴉どもだ」
ここまではセネリオの見立て通り。部隊の規模もミリアの伝えた情報とおよそ一致する。
「厄介なのは……キルヴァス王がいることだな」
ヤナフの千里眼はしっかりと、指揮をとるネサラの姿も捉えていた。
ネサラは最強の鴉。ミリアはもちろん、この軍の中で彼に勝てる者はいないも同然。
「キルヴァス王率いる部隊……か。どうにも、こっちに分が悪そうだな」
「……彼らをどう攻略するかが、勝敗を左右する筈です」
「…………」
そう都合よくどうにかできるようなものでもない。
「キルヴァス兵、ね……同じ鴉の話なら……聞いてくれないかしら?」
ティアマトの提案に、ミリアは頭を振る。
「期待されている所悪いが、私は命令違反している身なのでな。取り合ってもらえるとは到底思えん」
リュシオンを売った時、ミリアには待機命令が出されていた。それに逆らいミリアはここにいるのだ。
そのミリアの話を、ネサラに聞き入れてもらうのは都合が良すぎる。
「なんとか、キルヴァス兵を退かせる手はないのか?」
アイクがどうしても、と食い下がる。クリミア軍はデイン軍に比べて数が少ない。キルヴァス兵をどうするかは死活問題なのだ。
「……話すだけならいくらでも話そう。だが退かせるとなれば、私では恐らく無理だ」
かと言ってミリア以外の者では、ヤナフやウルキはともかくとして、リュシオンはネサラに売られた前科がある。リュシオンならばネサラを動かすこともできるだろうが本人が頑なに、説得に手を貸すことに了承しない。
「……いずれにせよ、今、行軍を止めることは敵に時間を与えるだけです」
「そうだな……とにかく、進軍する!」
アイクが号令をかけ、進撃が開始される。
「……シューターが多い。思うように飛べんな」
少しでも気を抜くとシューターから放たれた矢に貫かれそうになる。射手を討ち、何とか封じていく。
「っ……!」
不意に化身が解け、無防備な状態に晒される。
「あなたはこっちへ!」
ジルの竜に乗せられ、安全な場所へ連れ出され何とか事無きを得る。
「大丈夫ですか?」
「平気だ。それより……」
ミストの杖の癒しを受けながら、視線は飛来してくるネサラに向ける。
いちかばちか、ミリアはその前へ飛び出す。
「ミリアさん!?」
「止まれ! 王!」
化身もせず飛び出すのは命取りだ。それでも、ミリアは無防備な状態でネサラの前に姿を見せた。
「ミリア……!」
ミリアの姿を見てネサラは咄嗟に攻撃を止める。これでひとまず話はできそうだ。
ミリアがクリミア軍についたことは前の戦いで兵から報告はあったであろう。それでも、こうして目の前で対峙してようやく実感したのか、ネサラには僅かに動揺が見える。
ミリアは静かに、ネサラを見据える。まさかこんな所でネサラと対峙すると思っていなかったのはミリアとて同じ。慎重に、話さなくてはならない。