託されしもの 3

「本当にクリミア軍の所にいたとはな。何やってるんだか」
「私が一番驚いてます。まさかリュシオン王子を助けに行って、こうなるなんて……」

ミリアは自分でも苦笑する。

「クリミアにつけば、俺たちと戦うことになるって分かってただろうに」

分かりきっていた。それでも、そうしなければならない事情がこちらにもあるのだ。

「……一応、聞いてみますが……キルヴァスがこの戦場から退くつもりは……」
「そんなことする必要もないだろう。
それよりも、リュシオンはフェニキスの連中が助けたんだろ? ならもうお前がキルヴァスから離れる理由もない筈だ。戻って来い」

ネサラは命令に反したミリアを特に咎めることなく、帰還を促す。
言葉でどれだけ説得されても戻らなくて、打ち倒されてようやく傭兵団に戻ってきたシノンのことが脳裏に浮かぶ。彼の心境が今なら、分かる気がした。

「……王、いや……ネサラ。私はキルヴァスに当分戻るつもりはない」
「リュシオンのことならもう問題ないだろ? クリミアに固執する理由は知らねぇが、裏切るくらい別に構わねぇだろ」

ミリアはそっと、目を閉じる。

「……その言葉、リュシオン王子にも言えるか?」

ミリアの言葉にネサラは目を丸くする。

「リュシオンがここにいるってのか? なんでまた?」

ネサラの様子からして、セリノスで起きたことを詳しく知らないのだろう。

「クリミア軍に協力している。今この軍を率いているベオクに助けられた、その恩を返すためにな。王子だけでない。フェニキス王も、私も……そして、リアーネ姫も。皆、彼らに感謝している」
「リアーネが……生きていたのか……?」

リアーネの名を出せば、予想通り。ネサラが今までにないくらいの動揺を見せる。

「ああ。森に守られて……20年の間、ずっと眠っておられたんだ。目覚めて、彼らに助けられて……森が蘇ったことは知ってるだろう? あれは、おふたりが呪歌を謡ったからだ」
「……そういうことだったのか……」

森が色を取り戻した、その理由を聞かされネサラは腑に落ちた様子だ。

「……王子が売られた責任の一端は私にもある……そう思って、私はリュシオン王子を守り、無事にフェニキスに送り届けるため、ここにいる」
「…………」
「だが、ネサラがちゃんと話さないと意味がない。お前は一度王子と話すべきだ。それさえしてくれるなら、私からはもう何も言わない」

責任は果たすべきだ。ミリアはそのためにキルヴァスと敵対してまでここにいるのに、ネサラが何もしないのではミリアの行動に何の意味もなくなる。
ネサラもそれを理解したのだろう。リュシオンの元へ向かうべく翼を広げた。

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