ダルレカの攻防 2

「……クリミア軍に参加して……私は、初めて……自分が戦う意味というものを考えるようになりました。それまでは、ただ教えられるまま……誇りと名誉のことばかりで……。
でも、やっと分かったんです。私は……私が護りたい人のために戦う。……申し訳……ありません」
「そうか……クリミア軍に信頼できる相手を見つけたか……ならば、もう……心配することはないな」

ジルの脳裏にあるのは、ミストの屈託のない笑顔。
真っ直ぐな彼女の瞳に、将も満足げに頷く。その様子は、娘の成長を見届けた父親でしかない。

「はい。こうして敵になろうとも……私は……あなたの娘として誇りを持って生きていきます」
「では、行け。……ジル・フィザット! 己の信ずるがまま、進むがよい!」

決別の、瞬間だった。彼の娘として生きながらも、その道を違えた。

「……フィザット……そういうことだったのか」

ミリアは、初めて聞いたジルのファミリーネームに、ようやく目の前の人物が何者か気付いた。

「……?」
「噂に聞いたことがある。元老院に失望し、ベグニオンから亡命した者……。あなたのことだったのだな」
「いかにも。まさかラグズにまで広まっているとは」

広まっているのは、キルヴァスのごく一部だけだが。だが、その噂を耳にした時、あまりに羨ましかった。

「……私には、羨ましく思えた。あの愚かな元老院の元から逃げ出せたあなた方が……」
「何を言っておられる?」
「何でもない、戯言だ。せめて、敬意を払って、あなたを討とう」
「ならば、来るがよい。キルヴァスの鳥翼族よ」

結果はこんなことになってしまったけれど。それでも……。
ミリアは彼を討ち果たすべく、化身した。

 *

水門は止められ、戦いはクリミア軍が決した。
今までは勝利と共に喜ばしく思えたが、今回は全く違った。
虚しさ、哀しさ、そんな感情しか沸き上がらない。
濁流によって滅茶苦茶にされた畑、破壊された家屋。そんな目の前の惨状に。

「…………」

寒空の下、食料も、家も失った領民は、これから厳しい暮らしを強いられることになる。
ミリアはぼんやりと、アイクたちが兵糧を領民たちに配っているのを眺めていた。

「クリミアも、デインにめちゃめちゃにされてしもうた。けどわしらはその仕返しがしたい訳じゃないんじゃ。ただクリミアを取り戻したいだけなのにのう」
「……デイン兵に……酷い目に遭わされたけど……私たちは前の生活に戻りたいだけ……」

チャップとネフェニーがそう零す。彼らは元はただの農民だったらしい。この惨状に思うところがあるのだろう。

「……戦争とは、そういうものだ」
「分かっておるよ。わしらが何のために戦っておるのか、それを見失わんようにせんと。なあ、ネフェニー」
「……うん」

功績に目が眩み好んで敵の命を奪うことのないように。きっと彼らなら、それをずっと忘れずにいられる。ミリアはそんな一抹の期待を寄せていた。

「ミスト。ジルは……」
「1人で考えさせてって。無理もないよ。お父さんが死んじゃったんだから……」

そう言うミストの瞳は涙で潤っている。

「……ジルは、自分の信じる道をいくと言っていた。これからどうするか……ジル自身に、委ねるしかない」
「そうだよね……大丈夫かな」

どうするかは、彼女次第。

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