王なき王都 1

クリミア軍はデイン王都ネヴァサに辿りついた。
【狂王】の待つ王都。それにしては静かすぎるが、攻め込むための準備を彼らは整えていた。

塞ぎ込んでいたジルはクリミア軍と共に戦うことを決めた。そこに不安がないわけではない。
大丈夫と、思っていたが、今度の気がかりは落ち込んでいるミスト。ミリアにその理由は知れない。
雪は少しずつ解けかかり、春に近付いたそんな頃のこと。

「……随分と、落ち着かない様子だな?」

やけに動揺しているナーシルにミリアは声をかけた。

「ああ、君か。なんてことはないよ」
「……あの軍師殿なら気付いているだろうと、私の口からはあえて黙っていようと思っていたことなのだがな。何故、あなたのような者がデインに通じる?」
「それを君が言うのかい? もしもう少し何かが違っていたら、君の方がアイクたちと敵対していたというのに」
「私達とあなたではわけが違う。このような所であなたがしゃしゃり出る理由が読めないから聞いている」

ミリアは目の前の男に畏怖しそうになるが、それを表に出さないように努める。

「……言うことはできない、と言えば?」
「……そう言うのなら、私も無理に聞いたりはしない。あなたと事を構えるのは避けたい」

天地がひっくり返っても勝てそうにないから、と付け足してミリアはナーシルとの話を終わらせた。

デイン王城の門が開き、アイクはその誘いに乗り全軍突入。
それと共に門は閉じられ、退路は断たれた。
ここでクリミア軍を全員殲滅できるような切り札でもあるのか、と邪推する。例えば、大陸最強の強者……竜鱗族のような。
そんな馬鹿な、とミリアは自ら考えを否定し、玉座へと特攻していく部隊に加わっていった。

[ 22/84 ]
prev | next
戻る