1人、歌う 4
「……すまない。時間を取らせたな」
かなりの時間が経って、ようやくリュシオンが出てきた。その顔色はよくない。
「……話したいことが、ある」
「……この羽の持ち主のことか?」
アイクが指し示したのは白い羽根。
「……あの部屋で?」
「セネリオが見つけた。誰のものなんだ?」
リュシオンの口から出てきた名前は、ミリアにとって信じられないものだった。
「リーリア……私と、リアーネの姉だ」
「リーリア姫が!? 何故……」
「そんな……!」
エリンシアは口を押さえてしまう。
「話してくれるか?」
「……あの部屋に残されていたのは、リーリアの文字だ。……20年前の……悲劇の夜……混乱に乗じて連れ出されたらしい。私は……リーリアも他の兄や姉とともに……殺されたのだと……思っていた……今まで……ずっと……」
リーリアを連れ出したのは、ただ大きくて恐ろしいベオクとしか書かれていなかった。
その者は、リーリアに一族の宝をつきつけ、そこに封じられた者を復活させるための呪歌を歌えと強要したそうだ。だが、それはできないこと。
日の光も差さない、一枝の緑も見えない部屋でそう過ごして、リーリアは病に倒れた。
「ひど……っ……うぅ……」
そこまで聞いたミストは涙を流した。まるで鷺のような澄んだ心だと、ミリアは思う。
「……すまない、続けよう。
リーリアの世話係として、1人の娘が部屋を訪れるようになった。その娘は、青い髪、青い瞳……ベオクとは思えない澄んだ心の持ち主で……次第に……リーリアとは心を通わせるようになったそうだ……」
それを聞いたアイクとミストが反応する。リュシオンはそれを気に留めず話し続ける。
リーリアはその娘に望みを託した。娘は望みを叶え、呪歌と宝を持ってこの神殿から逃げ出した。
それを聞いて、アイクとミストが何かを確信したような顔つきになる。
「……そのベオクの娘について……他に……何か書かれていなかったか? 名前、は……?」
『エルナ……』
古代語で綴られていた名を現代語に直し口にしたら、二人の目の色が変わった。
「やっぱり、お母さんだ! わたしたちのお母さんだよ!」
「まさか……!?」
そんな馬鹿な、とミリアは思うが、ミストの鷺の民のように澄んだ心を思えば、母親もそうであったとしてもおかしくはない。