1人、歌う 5

「俺たちの母さんの名はエルナ……俺と同じ、青い髪、青い目だ。リュシオン、あんたのいう一族の宝とは……古ぼけた青銅のメダリオンのことだろう?」
「ど、どうしてそれを!?」
「俺の両親は、メダリオンを守るために……命を落とした。メダリオンは母さんの形見で……歌も、知っている」
「アイクたちがエルナの子供? では、エルランのメダリオンはここにあるというのか!?」

リュシオンの問いかけに、ミストは言葉を濁す。答えを返したのはアイク。

「メダリオンは、敵に奪われた……」
「そんな……だが、信じられない……こんな偶然が、あるものなのか……?」
「正直、俺もまだ実感が沸かない。だが、全てがこうして一致する以上……」

その偶然が、ありえたという動かぬ証拠が、ミストから示される。
ミストの歌う旋律。【再生】の呪歌によく似た旋律。

「ミストちゃん……この歌は……でも……少しだけ違う……?」
「リュシオンとリアーネが、森に聞かせた歌に……似てるだろ? 俺たちは、この歌を子守唄がわりに育てられたんだ……」
「……これは、【解放】の呪歌だ……リーリアが、エルナに託した……呪歌……」
「まさか、こんなことがありえるなんて……」

ミリアは未だ、夢でも見ているのかと思う。

「わたし……メダリオンをつけたままで毎日のように歌ってたけど……何も起きなかったな……」
「呪歌は、謳い手の力によって効力を発揮するものだ。……誰でもいいわけじゃない。【解放】の呪歌はオルティナの名を持つ娘にしか謡えない……。リーリアは、オルティナにこの旋律を……そしてメダリオンは、あるべき場所……セリノスの森へ……返して欲しいと……君たちの母上に願ったそうだ」
「リーリア姫……」

今も鮮明に思い出せる、リュシオンとリアーネによく似た優しき姫君。
彼女が、どうしてこんな謂れのない苦しみを受けなくてはならなかったのか。

アイクによれば、父親はメダリオンを持ったエルナを守るために逃亡したと。少し前に【火消し】から聞いていたそうだ。
彼らがデインから逃げ出したなら、リーリアを連れ出したのはデイン王ということになる。
そして、アイクの父はその追っ手に殺されたと。
それを聞いたティアマトが、アイクから父親の死に目を聞き出そうとしたのを、セネリオが止めた。

「……僕らは今まで、クリミア再興のために戦ってきました……。そこに、メダリオンによる邪神復活を阻止する目論見が加わり……グレイル団長の仇討ちが加わったとしても……相手は、変わりません。デイン王とその配下……それが僕らの倒すべき敵です」
「不思議ですね……。先ほど、リュシオン様もおっしゃいましたが、こんな偶然があるものなのでしょうか? 我がクリミアを滅ぼし……アイク様のご両親、リュシオン様の姉君の命が奪われた……それが全て、デインに起因しているなんて……」
「……それが真実ならば……この戦いの持つ意味が変わってくる……。リーリアの受けた仕打ちもそうだが……ベグニオンの先代神使が暗殺され……我が国は……その罪を着せられ、滅亡した。それが全て……メダリオンと呪歌を奪うための……デインの企みだったとすれば……私は……私の戦う意味は……」

初めは、恩返しの意味で戦っていた。だけど、真実を知れば、それだけではなくなった。

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