風は導く

ベグニオンに程近い海域。普段は嫌でも近付きたくないが、あるものを探すためミリアとネサラは飛んでいた

「……あ、あれでしょうか?」

いくつかの船が渡し橋で繋いである。その上では何人ものニンゲンが戦っているようだ。
そこから目的の人物を見つけ出し、傍に降り立つ。

「やあ、あんたたち。俺の兵隊は役に立ってるかい?」
「キ、キルヴァス王か……」

ネサラが話しかけた人物は今回の彼らの雇い主。だが顔色をなくし、様子がおかしい。

「なんだ、覇気がないな」
「ぐ……この有様を見てみるがいい! 他の部隊を出し抜こうと、お前に高い金を払ってクリミア王女の船に追いつき、襲うことに成功した! だのに、どういう訳か、ベグニオンの天馬騎士隊が我らを攻撃してくる! 身元がばれぬよう鎧も脱ぎ、旗もあげていない。なのに何故だ!?」

雇い主はネサラに罵倒を浴びせる。わざわざ出向いたのにこの態度か、とミリアは呆れた。
彼らが襲った船はクリミア王女を迎えにきたベグニオン神使が乗った船だ。折角情報を渡したはいいが、彼らは襲う船を間違えたのだ。だが幸か不幸か、神使を助けるためクリミア王女の護衛が接触してきている。
クリミア王女の居所を伝え、八方塞がりな雇い主の為にネサラ自身が動こうかと報酬をふっかけて持ちかける。
が、案の定雇い主は怒り狂う。

「消えろ……! 金輪際、貴様の力など借りん!」
「じゃあ、交渉決裂だ。気が変わったら呼んでくれよ。その辺で高みの見物を決め込んでるから」

戦いが見下ろせ、かつ巻き込まれない位置へと2人は移動する。

「……呪われろ! あさましき半獣の同胞め」

雇い主の吐き捨てた言葉はニンゲンより聴力の優れるミリアの耳にしっかり届いている。お前が呪われるがいい、愚かなニンゲンが、と内心で毒づく。
クリミア王女の護衛は思ったより骨があるようだ。今までのデインの追手を跳ね除けるほどなのだからある意味当然だが。
青髪の、まだまだ若いリーダー。それの下につくのはこれまた戦場に立ち間もないような者からある程度経験を詰んだ者など多岐に渡る。ガリア王の計らいか、獣牙の戦士も共にいる。
その誰もが素質に恵まれ、目を惹く戦いっぷりだ。
ミリアが戦いの方に興味を示している間、ネサラは後から追いかけてきたニアルチの小言を聞き流しながら兵に積荷の奪取を命じていた。

「あ、あれは……」

ふと、遠くに気配を感じてそちらに視線をやれば、3人の鷹の民がいるのが見えた。遠目でも分かる大男は鷹王だろうか。となれば傍らの2人は目と耳か。
彼らはこの戦いにすぐ興味をなくしたのかフェニキスの方角へと去っていった。
その間もデイン兵は悪足掻きをする。だがクリミア王女の護衛に圧倒されていた。
やがて、神使を助けに来たベグニオンの聖天馬騎士団が飛んできて、残ったデイン兵は海へ飛び込んで皆逃げていった。

「予想通りの結末だな。割り増し料金払ってくれりゃ助けてやったんだがねぇ。ま、ニンゲンが何人死のうが俺たちには関係ないさ。
おい! こちらも引き上げるぞ!」
「了解です」

奪った積荷を抱えた兵たちを連れてミリアたちも自国キルヴァスへと帰路につく。

「それしても、想像以上ですね、クリミア王女の護衛というのは」
「見た感じはただの傭兵団といった所だが……シーカーの部隊がやられたくらいだ。中々骨のある連中のようだな」
「そうですね。特にあの青髪のニンゲン……。獣牙族が信頼しているなんて。それに気付きました? 若い者とはいえ天馬騎士や竜騎士が一緒に戦ってました。普通じゃ考えられません」
「珍しいな、お前がニンゲンに興味を示すなんて」
「キルヴァスがデインにつく以上、奴らともどこかで私達と対峙するでしょう? 今から楽しみです、奴らをこの嘴で引き裂くのが」

元々は闘いを好まぬ気質のミリア。彼女にそう言わせる根源は言い知れぬニンゲンへの憎しみ。その憎しみ――負の気は、少なからず彼女を歪めていた。
どこか歪な笑みを浮かべたミリアを見て、どうして戦場に連れて行こうと思うのか。ネサラの気がかりすらも、今の彼女には全く届いていない。

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