戦場の再会

「マーシャ、こんな夜中に何を走り回っている?」
「あ、ミリアさん、すみません。兄さん見ませんでした?」
「……あっちの方角から誰かが走り回っているような気配がしている。それじゃないか?」
「ありがとうございます!」

マーシャは慌ただしく走っていく。
夜に元気のあることだ、とミリアはため息をつく。
ミリアたち鳥翼族は暗い場所視界が全く利かず、飛ぶこともままならない。この暗闇であのように走り回れて、その点は彼らが羨ましい。
空気の匂いから明日は雨だろうか。明日にはクリミア遺臣の待つデルプレー城に着く。雨の中というのも悪くは無いか、とだけ思い寝所に就いた。

 *

ようやくデルプレー城が見えてきたというのに、デインによる残党狩りに襲撃され城は包囲されている。
彼らを捨てて、他の隠れ家へ向かうことをエリンシアはよしとしなかった。
アイクはそのエリンシアの意思に従い、デルプレー城の騎士たちを救う方針をとった。
臣下を大事に思うエリンシアの気持ちを汲み取るアイクの言葉は、命を捨てるつもりですらあったルキノ、ユリシーズの心を動かした。彼らも戦場へ参戦を決めた。

「……エリンシア王女」

ミリアは後衛で待機だ。同じように待つエリンシアにあることを訊く。

「ミリア様?」
「……あなたは、国と臣下の命を秤にかけられた時……どちらを取りますか?」
「……!?」
「……臣下を捨てなくては国が滅ぶかもしれない。そんな時、あなたはどうするのですか?」
「私は……」
「……申し訳ない、過ぎたことを聞きました」

ミリアは苦笑する。国が滅ぶ瀬戸際に立たされている者の僻みのようなものだったのかもしれない。
クリミアだって、決してまだいい状況にあるとは言えないのに。

「……そろそろアイクたちも城に到達する頃のようです。よければ、私が城までお送りします」
「はい。お願いします……」

エリンシアは深々とお辞儀をする。

「……王女、上に立つ者が軽々しく頭を下げることは決して誉められたものではありません。礼節を重んじることと、腰が低いことは全く違います」

それだけ忠告して、ミリアはエリンシアを背中に乗せ飛び立つ。
飛んでいる間に、雲が薄くなってきた。雨も、もうじき上がるだろう。

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