激突 1

「落ち着かねえ様子だな、ミリア?」
「フェニキス王……」

不意にティバーンに話しかけられたミリアは咄嗟に手に持っていたものを後ろ手に隠す。

「おっと、何を隠した?」
「うわ、ちょ、やめっ……」

ティバーンはそれに目敏く気付き、ミリアの背中に回ろうとする。

「……紙とペン? 何だって……ああ、ネサラにリアーネのことを伝えようってか」

ミリアの必死の努力も虚しく見られた上に、なにに使うのかもすぐ悟られてしまった。

「う……」
「図星か。リアーネについては、お前がやることは今んとこねえな」
「え……それは……」

どういうこと、と続けようとした言葉はティバーンに遮られる。

「俺が何もせずに国を出ると思うか? 別の手も打ってある。ま、確実かどうかは分からんが」
「別の手……? それは一体……」
「おっと、そろそろ出発の時間だ。お前、いい加減体がきついだろう。気を付けろよ」

別働隊で動くティバーンは足早にミリアとの話を切り上げて行ってしまった。

「……ネサラ……」

今、何をしているのか。傍にいればこの不安も和らぐのか。
ふとした時に襲われる、ずっと傍にいた者がいないことへの不安や、負の気にあてられた体の不調は、今日は一際大きかった。

クリミア軍はピネル砦を攻め込み、挟みうちを避けるためフェニキス軍を中心とした別働隊がナドゥス城を牽制する。
デイン軍はクリミア軍の倍近くの兵を防衛に置き、一筋縄ではいかないといった所だ。

「エリンシア王女、本気で戦場に立つと?」
「はい」
「……いくら剣や乗馬に長けていても、それが実戦で通用するかは別の話。この厳しい戦いにおいて戦場に立つのは役に立つどころか足を引っ張りかねない……」
「分かっています。それでも、何もせずじっとしているだけというのは嫌ですから」
「分かりました……絶対に、無茶だけはしないように」

クリミアの国宝の剣を携えたエリンシアの姿は、頼りなさげでも、それ以上に強い意志が篭っている。その決意は確かだとミリアは感じ取り、止めることはやめた。

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