激突 2
砦の制圧は目前。後は砦を守る将ベウフォレスを打ち倒すのみ。
だが、何かがおかしい。それは一度交戦してすぐ分かった。
「……グ……グオォ……」
人にはあってはならない雄叫びを上げる。
「……ひ……」
エリンシアはそれにすっかり臆し、震えていた。
ここまでの戦い、想像以上にエリンシアはよくやった。あっという間に他の者たちに追いつく勢いの強さを見せたほど。
それでも、この男にいきなり戦わせるのは酷だろう。
「…………」
ミリアは一度解けた化身を再びし、ベウフォレスに向き合う。
ひと思いに、嘴で引き裂くべく飛び上がる。
だが、その直前で、違和感に気付いてしまった。
男の持つ、“におい”に――
*
ベウフォレスは討ち取り、砦も無事に制圧。クリミア軍は砦で休息をとっていた。
ミリアも、砦の一室で寝台に寝そべっていた。
扉を叩く音がミリアの耳に入り、入室の許可を出す。
「お疲れの所の無粋、お許しを」
「珍しい客だな」
入ってきた人物はユリシーズ。意外な人物に目を丸くする。
「何の用だ?」
「僭越ながら我輩は、貴殿に謝辞を申し上げる必要があると思いましてな」
「礼を言われるようなことをした覚えはないが」
ミリアは首を傾げる。
「いや、我輩どころかクリミアにとって貴殿は大恩となることを成し遂げた」
「……?」
ますます分からない。
「先刻の戦の将、貴殿があえて命を奪わなかったのは此の目からも明白」
「……ああ、そのことか」
ようやくユリシーズの言葉に合点がいく。
「だとしたらそれはお前の勘違いだ。確かにとどめは刺さなかったが、それは直前に攻撃の手が鈍っただけのこと」
「ほう。失礼を承知の上で、そのように至った理由を訊ねても?」
「……似ていたからだ。エリンシア王女と、あの男……」
においが、よく似ている。そう思った次の瞬間にはミリアの一撃は急所から逸れていた。
「成程。ならばやはり謝辞は必要かと」
「必要ない。礼を言うにしても、それはあの男が助かってからにするべきだろう?」
もはや正気でないあの男を元に戻さない限りは、命があることに意味があるとは思えないから。