宿命の刻 1

ミリアは軍営地をふらりと歩いていると、意外な人物と鉢合わせた。

「……お前は」

相手はミリアが反応を示したことに、意外そうに目を丸くする。

「おまえは私たちが何者か、気付いてると思っていたが」
「ああ。だからこそ、今まで話すこともなかった」

ソーンバルケ、【親無し】の剣豪。戦場で共に戦うことはあっても、話すことなんて今まで全くなかった。

「本能がお前たちのような者を恐れ、避ける。謂れのない恐れを抱く自分が嫌になるくらいにな。いっそ、モゥディのように話せるのが羨ましくすらなってくる」

この男とガリアの戦士モゥディが友情を築いていたのは記憶に新しい。それを知った時、ミリアは相当驚いたものだ。

「意外だな。私と話したいというのか?」
「……さあ。ただ、あなたや軍師殿の力に助けられているのは事実。なのに避けるのは割に合わない気がした。それだけのことだ」

ベオクへの認識を改めたように、【親無し】への認識も改めなくてはならないとミリアは思う。女神によって定められた、最大の禁忌の証といえど、彼ら自身に罪なんてない。そう思えるくらいには彼らに対する印象が変わった。
そろそろ軍議の時間だ、とミリアはその場を去っていく。議題はナドゥス城の攻略、そしてそこを守る漆黒の騎士をどうするか――
ミリアが出てどうにかなるとも思えないが、相変わらずティバーンはミリアに出ることを強要するし、それを反故にできない。まさかキルヴァス参戦の足がかりを作ろうとしてるのでは、とすら思うが、確証のないことで逆らうのも馬鹿らしく、結局素直に出るしかなかった。

[ 35/84 ]
prev | next
戻る