歪んだ魔塔 3

塔を制圧して、皆はリアーネの捜索に出た。
が、ミリアは捜索に出ずティバーンに詰め寄っていた。

「さあ、そろそろ吐き出して貰ってもいい頃でしょう? 以前言っていた、“別の手”が何なのか」
「俺が言わなくても、そこにいるだろ?」

ティバーンが指さした先にいたのは、

「……いいか? 誤解のないように言っとくが……ティバーンに! 半ば強制的に! やらされたんだ。別に善意でやったわけじゃない。この間のツケを払わされたってことだ」

リアーネを引き連れたネサラが。アイクたちと話していた。

「……王!」

別の手とは、やはりネサラのことだった。

「お前に頼んで正解だったな。見事なもんだ」
「……おだてても、これ以上何も出ないからな。約束通り、タナス公の一件はこれで清算してもらうぜ」
「まあ、いいだろう」
「じゃあ、俺は行くぜ」

帰ろうとするネサラを引き止めたのはティバーンだ。

「そう急ぐ必要はねえだろ? 折角来たんだ。デイン王を始末するとこまで付き合っていったらどうだ?」
「なるほど、それは名案だな」
「はあ!? 寝言はやめてくれ」

ミリアはあぁ、とこめかみに手を当てる。嫌な予感が当たった。

「……王、残念ながら諦める方が賢明かと」
「ミリアまで、何だってんだ?」
「私を鴉王の名代という名目で軍議に出していたのはやっぱりそういうことだったのですね……フェニキス王……」

ミリアは恨めしげにティバーンを見やる。今や周囲からはキルヴァスも正式に参戦していると見なされている。ここでネサラが国に戻ればそれはもう信用が地に落ちることだろう。ネサラに逃げ場はない。

「そういうことだ」
「ミリアも断れ、そんなもん」
「断れるなら最初からそうしています。どうしても嫌なら不参戦の理由を考えておきますけど」
「そうしてくれ」

ネサラを引き止めるのは今度はリアーネ。

『ネサラ、帰っちゃうの?』
「いいか、リアーネ。俺にはデインと戦う理由は何もないんだ」
「理由がない!? お前の国の民も、デイン王によって姿を歪められたというのにか?」
「……国を離れた奴らのことまで面倒見てられないだろ」
「お前……!」

ネサラを責めようとするティバーンの気持ちもよく分かる。けどミリアはぐ、と出てきそうになる言葉を飲み込む。ネサラはそういう王だ。自国の民にとっていい王であればいい。不満を抱いて去る者を追うようなことはしない。

「取り込み中に、すまないんだが」

割り込んできたのはナーシル。
見せたいものがあると言って、皆を地下に誘った。

 *

「ミリア嬢様……顔色が真っ白ですぞ」
「ニアルチ……大丈夫だ……」

本隊と合流したミリアは未だショックから抜けきらなかった。

「ネサラ……本当にいいのか?」
「あんなもん見た後じゃ、な。デイン王を放置しておけばろくなことにならねえ」
「そう……か……」

流石のネサラも“それ”を見た後では考えを改めた。改めてこの戦いに参戦してくれることになった。
塔の地下にあったのは、無数のラグズで「あった」ものたち。多くが原型を留めておらず、おぞましい実験に使われていたことは自ずと分かる。
それらは全てアシュナードの命令で行われたこと。ラグズを道具のように思うのはアシュナードに限らないが、それは常軌を逸していた。
思い出すと、また視界に霞がかかる。

「ミリア、今日はもう休んでおけ。そんなんじゃまともに戦えないだろ」
「そうする……。ネサラ……」
「ん?」
「……いや。何でもない」

今この場にネサラがいてくれることに感謝したい。けど、今それを言うわけにはいかなかった。

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