帰還 1
ようやく、王都メリオルまで、目前となった。決して短くはない道のりを乗り越えて。
残るは、アシュナードを討ち取れば、この戦いはクリミアの勝利となる。
1年に渡る戦いに決着がつけられようとしていた。
その前夜のちょっとした出来事――
ミリアは随分、気持ちも落ち着いてきた。あの塔の地下の出来事は忘れられない。忘れられないからこそ、この戦いに挑む心構えも引き締まる。
珍しく気が昂ったミリアは夜だというのに、散歩に出てきた。
「……くそっ、あの爺……」
「王?」
苦虫を噛み締めたような顔のネサラに何かあったのかと近付く。
「あの2人を持ち出したら俺が言いなりになるとでも……!」
ミリアはその呟きで大方察した。この戦いから逃げ出そうという算段をニアルチに崩された、といったところか。
「けど、事実でしょう?」
ネサラがどれだけセリノス贔屓かなんて、誰もがよく知っている。ティバーンも、それを承知でキルヴァスを信用し作戦に組み込んでいるのだから。
いや、それどころかセリノスのことを抜きにしてもキルヴァスに逃げ道はない。
「ったく、お前もお前だ。ティバーンに言いくるめられたりなんてするから……」
「その点については申し訳ないですが……ですが、私、少し嬉しかったんです。ティバーンに頼られたような気がして。思い上がりでしたけど」
かつて、年上の比類無き強さを誇る鷹に憧れて強くなろうとしたミリアにとって、ティバーンに頼まれごとをされて断るなんて最初から無理なことだ。そんな自分の愚かさに苦笑した。
「そうだったな。ちっ……」
目に見えて機嫌を悪くしたネサラにミリアは怪訝な表情になる。
「……王?」
けどすぐにネサラの真意を読み取ったミリアはそっと目を閉じる。
「……心配しなくても、私が敬愛する王はあなた1人ですから」
ティバーンのことは憧れだけど、傍にいようと思うのはネサラ。この戦いを機にネサラの元から離れて、いっそうそれを自覚した。
「……そうかよ」
目を閉じたままのミリアは知らない。ネサラの顔が僅かに赤くなっていたことに。