帰還 2

いよいよ王宮を、決戦を前にして、ミリアは待機しながらエリンシアの演説を聞く。

「……クリミアの勇敢なる兵士たち、ガリア、フェニキス、キルヴァスの雄々しきラグズの方々……そして……この戦いのはじめから私を助け共にいてくれた……グレイル傭兵団のみなさん!
あなたがたの力強い手が、私を今日まで生かしてくれました。心から感謝しています。この戦いが終わったら……ここにいてくださる方、1人1人に……お礼を言わせて頂きたいです。
だけど、その前に……
最後にもう一度だけ……私に皆さんの手を貸してください! デイン王アシュナードを討ち果たし、クリミアを取り戻すために……! お願いします!」

エリンシアの、兵たちを想い、国を想い、その強い願いを込められた演説は兵たちの士気を上げるのに十分だ。
歓声が上がり、エリンシアを賛辞する者たちを見て、彼女は王となるのに十分な器だと感じる。まだ未熟だけど、その片鱗はしっかり表れていた。
そして、もう1人……種族も、国も関係なく人を惹き付ける器を持つ将――アイクの演説だ。

「最後の戦いの前に、俺が言っておきたいのはこれだけだ……誰も死ぬな!
俺の親父の受け売りだが、今だからこそ、親父が言ったことの意味がわかる。ここまで来たんだ。最後まで油断せず、持てる力の全てを出し切って……この長い戦いに終止符を打とう! 家族を悲しませたくなければ、生き延びろ! クリミアという国を再興し、自分の仲間や家族をデインの恐怖支配から解放してやろう!
さあ、みんな行くぞ!」

圧倒、されるようだった。
兵たちは皆腕を、武器を持ち上げ、先ほどの比ではない歓声が沸き上がる。
人の上に立つ者として、彼はミリアが今まで見てきた中で最上位の器だった。ぶっきらぼうでまだまだ荒削り、だけど心に響くものがある。
アイク自身はそれを望まないかもしれない。けどそれが彼らしく、そして彼の器を更に広げる要因でもあるのだ。
そんな男に出会えたことにミリアは心の内で感謝した。彼がいなかったら、ミリアの憎しみは融けなかったかもしれない。こんなに昂って、意気揚々とした気分で戦場に赴くことなど、一生なかったのかもしれない。

[ 41/84 ]
prev | next
戻る