帰還 4
要請を出しても、彼らはすぐ来れるわけではない。
その間、アシュナードを抑えなければならないが、
「我に力を見せてみよ、キルヴァスの者よ……」
「……!?」
間近で感じた、アシュナードの圧倒的な威圧感にミリアは固まる。人を越えたそれは、並大抵の者では太刀打ちできない、どころか、挑もうという気すら起きない。
デインの宝剣グルグラントを振りかざされて尚、ミリアの体は動かない。
「ミリア!」
体を何者かに掴まれ、その場からすぐに離れた。
「……鷹……王……?」
「ぼさっとすんな……ってのも無理な話だな、ありゃ。
俺たちに任せとけ。必ず……仕留める」
ミリアを助けたその勢いのまま、ティバーンはアシュナードに挑むべく翼を広げた。
既にジフカも駆けつけてきて、戦いを繰り広げていた。
それから程なくして、ネサラも来た。
「……こいつが、デイン王か……!? すっかり化け物になっちまって……これと戦えって? 勘弁願いたいぜ……」
「……王……」
言葉こそ逃げ腰だが、その視線はアシュナードの隙を伺っていた。
「下がってな。お前はそこで見ておけ」
「…………」
ミリアは何も言わず引き下がる。この場にミリアが出るのは力不足すぎるなんてさっきの出来事でわかりきっている。
自分の無力さを恨めしく思う反面、
「わたしたちも頑張ろう!」
「……そうだな」
力はなくとも、何も出来ない訳ではない。アイクたちに杖を翳すミストやエリンシア、呪歌を謡うリュシオンを守るため、ミリアも周りを警戒する。力はなくても、何かを成すことはできる。人には役割がある。
漆黒の騎士すら倒したアイクが、大陸最強の竜鱗族たるナーシルやイナが、種族最強の力を持つティバーンやネサラ、それに匹敵する力を持つジフカの数人がかりで、彼らも相当傷ついて、ようやく戦いは終わりを迎えた。
「終わった……」
絶命したアシュナードを、地に伏した彼の騎竜を見て、ミリアは全身の力が抜けるようだった。ぺたり、とその場に座り込んでしまう。
「終わったのですね、ようやく……」
エリンシアの顔に、全身に、空気に、喜びが宿った。
「…………」
ミリアは、今まで張り詰めていたものを切らしたまま、覚束無い足取りで竜に駆け寄るイナを見やった。