流れゆく雲に 1
数日ガリアに滞在したら帰るつもりでいたが、思わぬ事態で長い滞在になってしまった。
そんなある日、リアーネがとんでもないことを願い出た。
『ミリア、ニアルチ。私、アイク様に会いたいの』
「リアーネ姫!?」
リアーネが何をしたいのか察しはついたが、それを止めようにも――
『止めても無駄よ』
リアーネの決心は堅い様子だ。こうなると止められない。
「リアーネお嬢様、お1人では危ないですぞ。この爺がお送りしましょう」
「はあ……どうするか……」
ミリアはどうするか、身の振り方を考えようとしていたら。
『じゃあ、決まりね。行きましょう』
「ええっ!? せめて使者か何か送ってから……」
リアーネは即座に行動を始める。
アイクのいるクリミアに向けて飛び立とうとするリアーネとニアルチをミリアは慌てて追いかけた。
*
「……全く……帰ったらどう言い訳しようか……」
国境付近で、ミリアは再びこめかみを押さえた。
『大丈夫よ、ミリア』
「はあ……」
こうも振り回されることに慣れないミリアはため息を吐くばかりだ。
国境を近くにして、目的地の王都メリオルを思い出す。あの場所に訪れるのは3年前以来。少し感慨深く思う。さほど経ってないのに、あの戦争が遠いことのようにも感じられる。
だが、そう長く感傷に浸ってはいられなかった。
「おい、あれを見ろよ……」
「白鷺じゃねえか! へへ、運がいいな!」
不穏な気配の元を見やれば、ベグニオンとの国境付近を巡回していたであろう竜騎士たちがリアーネを見て下賎な顔になっていた。
「あわわ……ミリア嬢様……」
「逃げるぞ、ニアルチ! リアーネ姫も!」
『どうしたの? 2人とも』
軍規で侵入を禁止されてるクリミア領内に入りさえすれば、追いかけて来られない筈と読んでリアーネの手を掴み全速力で羽ばたく。
だが、その読みは――
「逃がすなよ!」
「なっ……!?」
彼らは軍規を無視して、クリミアに侵入していった。
「これだからベグニオンは……!」
3人は思い思いに逃げるが、竜騎士たちに少しずつ距離は詰められていた。