陰謀渦巻く 4

無事フェリーレ公の領地から脱出して、王宮へと戻れた。
ルキノは証拠たる命令書を提出し、これで鎮圧に動けるという矢先に、フェリーレ公が反乱を起こした。
それと同じ頃合いに、アイクの居場所を調査していたマーシャが戻ってきた。

「マーシャ、ただいま戻りました」
「お帰りなさい。アイク様の行方はわかりましたか?」

マーシャは肩を落とす。

「いいえ。それが全然……すみません。あ、でも、とりあえずわかったことだけでも報告を!
まず、いつも使ってる傭兵団の砦はお留守でした。付近の村人の話によると……グレイル傭兵団はあまりお金にならないような小さな仕事をたくさんこなしてたみたいです。そのために、日頃から砦を留守にしていることが多いけど、こんなに長く戻らないのは初めてだと言ってました」
『アイク様……』

折角調べてくれたのに依然行方は掴めないまま。

「……リアーネ姫、どうか気を落とさないでくださいね。これからも引き続き、グレイル傭兵団の行方を調査しますから」
「おねが……しま、す」
「まあ……リアーネ姫……! 言葉が!?」

エリンシアはリアーネが現代語を話したことに驚く。

「驚かれましたかな? お嬢様はテリウス語……俗に言う“現代語”をお勉強中でございましてな。こちらでは、この爺のほかはみな古代語を話されませんので」
「まだ……すこ、し……だけ……」

最近始めたばかりだからたどたどしいが、簡単な会話くらいならできるようになってきたらしい。ミリア相手には古代語でも大丈夫だったから、ここまで気付いておらず驚いた。

「それでもすごいですわ。もっと何か話してくださいませんか?」
「……だい、じょ……ぶ……?」
「え……?」
「エリ、シアさ……ま……こころ、とっ、ても……いたい……かわいそ……う……」

たどたどしいながらも、エリンシアの傷心をリアーネは精一杯伝える。

「あ……そうでした、鷺の民は……他者の考えていることを読めるのでしたね? リアーネ姫には……私の心の痛みを隠せないのですね……。どうして、こんな……自国の民同士で争うなんて……」

優しいエリンシアには、耐えられないことだろう。

「本当は……今すぐどこかへ逃げてしまいたい。どうしてみんな……私なんかに期待するの? ……お父様や叔父様のようになんて……私にはできはしないと、最初からわかっているでしょうに……みんなみんな……好き勝手なことばかり……誰か助けて……」

ついに箍が外れて、エリンシアは涙を見せた。

「私は女王になんかなりたくなかった……なりたくなかったのに……!」

膝から崩れ落ち、リアーネに縋る。
本当なら、エリンシアは女王にならなかった筈なのだ。女王としての重圧に耐えられないのも無理はない。
リアーネもその心中を読み、その心を癒すために謡う。

『泣かないで……私は、エリンシアの味方』
「……っ……う……ぅ……」

誰にも言えない胸のうちを吐露して、誰にも見せられない涙を流して。
ミリアはかける言葉が見つからなかった。気持ちは痛いほど分かるのに、それを癒す術が分からない。

[ 55/84 ]
prev | next
戻る