女王エリンシア 1
反乱の鎮圧に王宮騎士団が向かった。その隙に王都にいる筈のエリンシアを狙ってくると踏んだルキノの策により、エリンシアたちはアルピ砦へと移された。
だが、王都の隠れ家からハールが単身戻ってきてから、砦が騒がしくなった。詰めていたクリミア兵たちが戦闘準備にかかっている。
「……嫌な予感がする。ルキノは……?」
ミリアはエリンシアの様子を見に部屋を覗く。
そこにいたのは、切り落とされた水色の髪の束を抱き祈るエリンシアの姿が。
「……ルキノ……どうか……どうか……無事でいて……」
「…………」
その様子から、何があったかおよそ察してしまった。
「何事ですかな? 先程から騒がしい様子ですが……もしや良くない知らせでは?」
ニアルチの問いかけに、エリンシアは申し訳なさそうに応える。
「この砦に……まもなく敵が攻めて参ります……」
「な、なんと!?」
「……敵の狙いは王都であるとの読みは、外れてしまったようです。あなたがたを危険に巻き込んでしまうこと……何とお詫びすればよいのか……」
「なに、そう気になされるな。リアーネお嬢様の御身はこの爺めとミリア嬢様がお守りしますぞ。女王はご自身の心配をなさっておられればよい」
このような状況になったことにはエリンシアにも、ルキノにも非はない。それは皆理解している。
「わたし……うたって……エリ、シアさま……を……たす、けます!」
「いけません! そんな危険な真似をさせるわけには参りません!」
「わたし……すき。エリ、シアさま……たすけ……ます」
リアーネの決意は硬いようだ。こうなっては梃子でも動かせない。
「なら、私も。ここまで来て安全な場所に引っ込むなんて示しがつきません。最後まで、付き合います。これは自分から首を突っ込んだこと、女王が責任を感じる必要はありません」
ミリアも、エリンシアのことを放っておけない気持ちは一緒だ。
「ミリア様……皆さま、すみません」
クリミアの宝剣アミーテを手に戦列へ向かうエリンシアは、戦いが起こることを未だ哀しんでいた。