女王エリンシア 4

フェリーレ公が降伏したことで、反乱軍たちは逃げ惑っていた。
今後の不安の種を潰す意味では彼らに追撃した方がいいとは思うが、抵抗しない者に攻撃を加えないというエリンシアの命令のために、見送るだけだ。

「終わった……戦争が始まりそうなのにまさかその前に内乱に巻き込まれるとはな……」

本来なら無関係なミリアが最後まで付き合ってしまうとは、そんなつもりでないのに何だかんだで自分も人が好い。

「戦争? 今ガリアでは何か起きてるのか?」
「……多分、近いうちにお前たちにもガリアへの帰還命令が出される筈だ。機密事項だから、詳しいことは話せないが」
「……そうか」

レテはそれ以上は聞くことはしなかった。
ふと、門の外の広場が騒がしいことに気付く。

「……奴ら、戻ってきたのか……。……あれは!?」

逃げ出した兵はとんでもないものを持って戻ってきた。
捕らえられたルキノ。それだけじゃない、彼女は絞首台に立たされている。

「女王に告ぐ! フェリーレ公を解放せよ! さもなくば、この女を処刑する!」

人質、ということだ。
ルキノを優先すれば、クリミアは、エリンシアはただでは済まないだろう。
けど、エリンシアに臣下を捨てる選択をさせるのは酷だ。彼女はそれができるほど非情になれない。

「どこまでも汚い奴らだ……!」

フェリーレ公もきっとそれを分かってて、この手段を取らせたのだろう。


やがて、獄中のフェリーレ公に交渉していたエリンシアが戻ってきた。

「反乱兵に告げます! 私はクリミア女王エリンシア」
「どうした!! さっさとフェリーレ公を解き放て!!」
「要求は呑めません。フェリーレ公ルドベックは国を乱し、王位を簒奪せんとした重罪人。決して赦すことはできません」

エリンシアの言葉に、息を飲んだ。
交渉に向かう前とは打って変わって厳かな顔つきで、ルキノを捨てる選択をとった。

「エリンシア女王……」

短時間で何があったのか分からないけれど、エリンシアにそれがもたらされた確かだ。
国のために、大切な人を切り捨てられる非情さを。王として絶対に必要なもので、エリンシアが今まで備えてなかったものを。

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