女王エリンシア 5
ルキノも国のため命を捨てるのは覚悟のうち。エリンシアの成長に安心したように微笑みをかけた。
そして毅然と、ただその時を待っていた。
ミリアは、それを見届けるべく、目を逸らさず見つめる。
「……?」
不意に、付近の木に紛れて、何か赤いものが動いた気がした。
気のせいか、と思ったその時――
そこから矢が飛んできて、ルキノを吊るしていたロープを寸分の狂いもなく切り落とした。
同時に隠れていた男が民衆の間を縫って駆け出し、投げ出されたルキノを受け止める。
兵士たちは慌ててルキノを取り返そうとするが、その者の一太刀で一蹴される。
間違いなかった。3年前から随分成長したが、彼は――アイクだ。
「貴様っ! 何者だ!」
「女王の手先だっ! 逃がすな!」
囲もうとした者たちは、どこに潜んでいたのやら、セネリオの魔法で吹き飛ばされる。
呪文を唱えるセネリオに不意打ちをかけようとした兵士は、更に背後から不意打ちで斬られてしまう。
「よーっし、絶好調の剣の冴え。我ながら惚れ惚れしちゃうねぇ」
斬ったのはワユ。
さらにはティアマトとオスカー、オスカーの馬に同乗してボーレが乱入してきた。
木の上からシノンとヨファが矢で援護して、アイクとガトリーが大立ち回りを演じて。
気を失ったルキノは戦う彼らの傍ら、ミストとキルロイによって癒されていた。
予想外のグレイル傭兵団の乱入は、状況を一転、ルキノの命を救う結果となった。
「……全く……」
散々捜したのに向こうから、しかもこんな派手な演出付きで助けに来てくれるとは思わなくて、体の力が抜ける気分だ。
「けど、よかった……」
あの状況からルキノの命が救われたことで、ミリアは安心して息を吐いた。