交わされた誓約

「アイク、久しぶりだな。随分とでかくなって」

エリンシアとの話を終えたアイクたちにミリアは声をかける。目の前にして改めてその成長ぶりを痛感した。たった3年で華奢な少年から筋骨隆々とした青年に様変わりして、ベオクの成長は早いものだ。

「ミリアか。あんたもクリミアにいたんだな」
「ああ。そのことなのだが……」
『アイク様!』
「おお、アイク殿!」

リアーネとニアルチがアイクを見つけて歓喜の声を上げる。

「ガリアに訪れた時に色々あってな、リアーネ姫がお前に会いたいと言い出して」
「リアーネが?」
「ああ。それでほとんど成り行きで同行してこのザマだ」

ミリアは苦笑した。

「アイ、クさま……え……と……」

リアーネはやがて伝えたいことを切り出す。

「たすけ、て……」
「ん?」
「にいさま、たち……たすけ、て……」
「どういうことだ?」

それだけでは何が起きてるのか分からない。アイクは訝しげな顔になる。

『ラフィエル兄様が来て、森で本当は何があったのか分かったの。それでリュシオン兄様たちが怒って……戦いが起きるかもしれない。お願いアイク様、兄様たちを助けて!』

現代語での説明はできずに古代語で話すが、アイクにはそれが分からない。

「何て言ってるんだ?」
「ベオクには漏らせない情報ですじゃ」

ニアルチは通訳を拒否する。今度は弱ったようにミリアを見るが、

「すまない……機密事項だから私たちの口からは話せないんだ……本当はリアーネ姫がこうして話すのも……」

ミリアも話したいのは山々だが、話すことはできない。

「そうか」

何か大きな事情はあることを察したアイクはそれ以上聞く事はなかった。

「ただ、大きな仕事を終えた後で悪いが、お前達にまた大きな仕事が来る可能性は高い。それだけは覚えていてもらえるか?」
「ああ、分かった」

ミリアが伝えられるのはここまで。あとはガリアでの協議の決定次第。

「ではお嬢様、帰りますぞ」
「うん……さよ、なら……アイ、クさま……」
「ああ。またな」

挨拶を済ませ、ミリアたちはクリミアを発った。

それが数日前の話。
虐殺の少し前にセリノスから姿を消し、死んだと思われていたセリノスの王子ラフィエルが死の砂漠の向こう側、幻の国ハタリから、滅んでいたと思われていた狼のラグズの女王を伴いガリアを訪れ、リュシオンやリアーネと再会を果たした。そして、セリノスの虐殺の真実――あの虐殺は、ベグニオン元老院が仕組んだものであったこと――が彼からもたらされた。それに怒りを持ったティバーンたちはラグズ連合を結成。
セリノスの虐殺の事実確認にベグニオンは知らぬ存ぜぬを通した。その最終通告に送った使者は殺され、それを機にラグズ連合はベグニオンへ宣戦布告。ラグズ連合には依頼されたグレイル傭兵団も参加することになった。
本当はこの戦いにキルヴァスは関わりたくなかった。
それなのに、

「……どこまでも腐った奴らめ……!」

宣戦布告されたベグニオン元老院はキルヴァスに対し、連合軍に参加し行軍予定などを伝えることを強要してきた。つまり、彼らを裏切れというのも同然のこと。
ミリアはやり場のない怒りに苛まれるしかなかった。

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