迫り来る軍勢 1

ガリア軍は国境を越え、瞬く間に帝都へ近付いていた。
それを焦った北方の貴族たちは北方軍を結成し、陣を敷いた。そして、帝都からも中央軍が進軍してきている。
北方軍と中央軍、両方を相手にすればガリアは瞬く間に壊滅する。
そこで、フェニキスとキルヴァスの両軍が補給部隊を叩き、中央軍の足止めをするという作戦だ。
けど、この作戦にはまだ裏がある――

「浮かない顔だな、ミリア?」
「っ、鷹王……」

作戦にあたり、鳥翼軍も本格的にベグニオン入りする。その前の休憩中、ミリアは思い詰めていた。

「いよいよベグニオンに入るんだからな。心配事でもあるなら今のうちに聞いてやるが」
「いいえ、それは全く……ただ、こんなに大きな戦いに挑むのは初めてだから……体が震えているようで……」

心配事はたくさんある。でも、それを話すわけにはいかない。ミリアはどうにか誤魔化す。戦場への緊張なんて、ある筈がないのに。戦場に立ちすらしないのだから。

「そりゃそうか」

何も知らないティバーンは納得したようで、ミリアに何かを投げ渡してした。

「……ユクの実……」
「何か食えば、緊張も解れるだろ」
「……あ、ありがとうございます……」

ティバーンの心遣いに、嘘をついてる手前心が痛む。

「あいつにも渡したら真っ先に裏がないか勘ぐられたんだがな。それに比べてお前は本当に素直な奴だな」
「……私だって、無条件に信じてるわけではありません。あなたの人柄をそれなりに理解した上で、大丈夫だと判断してますから」

これが別の者から渡されたなら毒でもあるのか疑うが、ティバーンがそんなことする性質ではないのは痛いほどよく分かっている。

「ま、信用されるのも悪くないな。ただお前もネサラと同じように、隠し事はちっとも話してくれねぇが」
「…………」

本当は、洗いざらい話して楽になりたい。助けを乞いたい。縋りたい。けど、それをすればキルヴァスが危機に陥るだけなのだ。
ミリアがキルヴァスを危機に陥れるのは、あってはならないことだ。

「……話せるものなら、とっくに話してます……」

これから、キルヴァスは決して許されない行為をする。あんなにも愛したセリノスを、皆を裏切る。
謝って許してもらえるなんて思ってもいない。許されなくて当然だ。
だが――このように話してもらえて、気にかけてもらえるのも、きっとこれが最後。それが、酷く辛かった。

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