迫り来る軍勢 2
休憩を終え、軍は飛び立つ。裏切りのため、その時はもう目と鼻の先。
「……キルヴァスで待機しててもよかったんだぞ」
「……いいえ。1人だけこの重責から逃れようものなら、私はきっと、一生後悔します。一生自分を許さないでしょう」
ネサラはなんて優しいのだろう。ミリアが、民が逃げ出すことを、苦しみから目を背けることを赦してくれる。自分だけで全て背負おうとする。だからこそ、ミリアはどんなに苦しくても、逃げない、目を背けないと決めたのだ。
「国のために大切なものを捨てる決断は……身を切られるようだけれど……」
腐ってもミリアだってキルヴァスの戦士。何を優先すべきかは痛いほど分かっている。
気持ちを捨てるのではなく、大切に抱えた上で、覚悟を決めて、ベグニオンの補給部隊――を装った中央軍の元へ翼を進める。
中央軍が見えたら、フェニキス軍に気取られないようにしつつ撤退することで、事実上戦力を半減させた状態で彼らをぶつける。
そうして、フェニキス軍の注意を逸らした隙にベグニオン軍はフェニキス本土を攻め込む算段だ。
よくもまあ、こんな卑劣な策が思い付くものだとミリアは内心元老院に唾を吐いた。
撤退した後、多くの兵はキルヴァスに帰し、ネサラはミリアやニアルチといった極少数の者達だけを連れて帝都へ向かうことになった。
「裏切るためだけに連合軍に参加したけれど、誓約がなければずっと一緒に戦いたかった……」
「過ぎたことを言ってもしょうがねえだろ。早く行くぞ。あんまり遅れて連中の機嫌を損ねる訳にもいかないからな」
「…………」
割り切ってるように見えてネサラも、内心苦しんでいる。ミリアもそれは分かっている、これ以上は未練がましいことは言わないと決めた。
「っ……うぅ……」
その筈だった。けど、今だけは。
「ミリア……」
ネサラに縋って、涙を流す。ネサラは何も言わなかった。どんな言葉も、今のミリアには意味がないと分かりきっているから。
ネサラはミリアを抱きしめる。その手から、やり場のない怒りや哀しみが伝わってくる。
どんなに強く決意しても、完全には割り切れない。ミリアだって、ネサラだって、同じだった。