クリミアの心 1

セフェランが投獄され、サナキが病となった日、元老院が勢いづいて、講和は破棄されラグズ連合軍への討伐にベグニオン軍は動いた。分かれていた派閥は、神使が動けなくなったことで完全に元老院に傾き、彼らの横暴を許してしまっている。
セフェランの狙いは、そこにあったのだろう。この状況でも自由に動けるキルヴァスに、元老院によって幽閉されたのであろう神使を救出させること。その意義を持たせるために、誓約の抜け道を今更教えてきた。
救出の当てもつけられる。大神殿マナイルは元老院派の者たちによる警備が強化されていた。これほどまでに露骨だと逆に罠を疑ってしまうくらい。
今、帝国軍はガリアへ逃れた連合軍を追いクリミアへ入り、元老院の注意もそちらへ向いている。動くなら、今だ。

「神使がいるのはマナイルだろうな」
「でしょうね。それならどうにか潜入して神使を救い出す必要がありますが……」

どうやって警備を掻い潜るのか。ミリアは些か首を傾げる。

「グリトネアの時と同じだな」
「グリトネアと……?」

そういえば、あの時捕らえられたリアーネを救い出したのはネサラだった。その時クリミア軍に参加していたミリアは生憎、どんな手段で潜り込んだのか知らない。

「ぼっちゃまが兵に扮して潜り込み、爺めたちは何かあった時のために待機しておき、無事連れ出せたら合流するという方法を取ったのですじゃ」
「成程……って、はあ!? 1人で潜ったのか!?」

ニアルチの説明にミリアは仰天する。

「まあな。大人数でわらわら動いてちゃその方が危ねえだろ」
「それはそうだが……今回の相手は元老院だぞ? 一筋縄では……」

段々不安になってきた。

「何だ、俺のことが信用できねえってか?」
「そ、そんなことは……」

ネサラのことは信じてるが、危ない橋をたった1人で渡るのを黙って見送るのも忍びない。

「そういうことだ。さっさと行ってくる。グズグズしてると状況が悪化しそうだしな」
「武運を祈っておりますぞ」

ネサラはマナイルへと発ち、ミリアたちは待機――というより、置いていかれた。

「本当に大丈夫なのか……?」

キルヴァスの今後がかかった作戦。それをネサラ1人に任せるのは荷が重すぎる。ミリアはただ、無事を願うしかない。

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