クリミアの心 2
「そちらは……キルヴァスの方々とお見受けします。このような所で一体何を?」
マナイルより少し離れた場所で待っていると、たまたま通りかかった聖天馬騎士団長シグルーンに見咎められた。
「……たった1人無謀な作戦に出てる王を待っている最中だ」
「鴉王を? 連合軍の方で何かあったのでしょうか?」
「…………」
「今の我々とラグズ連合軍は関係がありませぬ」
口を噤んだミリアの代わりにニアルチが説明に出る。
「まあ、そうなのですか? 一体どうして……」
「私たちのことよりも、あなたは今ここで道草を食っていいのか?」
「急いで行動に出たいのは山々です。ですが、今下手に行動に出てはかえって裏目に出てしまいかねません」
暗に神使のことを言えば、下手に動けない現状にシグルーンは眉を寄せる。
「それならば、今ここで私たちと一緒に待ってみたらどうだ? 上手くいけば、あなたたちも私たちも目的が果たせる」
「? あなた方は一体何を……」
シグルーンは怪訝な顔になるが、どちらにせよ動けない。それならとミリアの提案に乗ることにしたようだ。
待つこと、数刻。ミリアたちは飛来する蒼鴉を視界に捉えた。
「王!」
そして、その背にいる小さな少女の姿も。
「よう。無事助け出してきたぜ」
「そなたは、鴉王の腹心であったな。安心するがよい。そなたたちの事情は鴉王より聞いた。これより鴉王は、わたしの配下となる」
「そう、ですか……ありがとうございます……」
サナキの言葉にずっと張り詰めていた気持ちが解けて体の力が抜けそうになる。
「安心するのはまだ早い。誓約自体をどうにかしないとまだ自由になったとは言えないんだ」
「うむ。わたしもキルヴァスの解放のために力を尽くそう」
幼き皇帝の姿がこの時、ミリアには女神のようにも思えた。なんて、頼もしい。
「サナキ様! よくご無事で……!」
シグルーンが涙ぐむ。
「シグルーン、心配をかけたな。帝国軍は今どうしている?」
「ガリアへ逃れたラグズ連合軍を追い、現在はクリミアにいる筈です」
「わかった。わたしもクリミアへ向かおう。奴らを告発せねばならぬ」
シグルーンは待機していた神使親衛隊を全て集め、クリミアへ向かう手筈を素早く整えた。
「そなたたちは一旦国に戻り、待機していてもらえるな? 必要になった時に呼びだそう」
「分かりましたよ」
サナキたちを見送り、胸に安堵を抱えたミリアたちはキルヴァスへ戻る。
絶望の底に見えた光明。その無事を祈りながら。