目覚めの刻 1

サナキからの呼び出しを受け、ネサラたちはデイン領ノクス城へ向かっていた。
あれからサナキは元老院を告発し、ラグズ連合、クリミアと同盟を結び皇帝軍を結成。ベグニオンへ向けて進軍を始めた。
だが――デインを通過した際、デイン軍の襲撃に遭った。予想外の攻撃に、皇帝軍は壊滅し、今も手を焼いている。

「ベグニオンでも反乱が起きた今、デインに元老院の味方につく利点なんてない。そうなると……」
「間違いねぇな。デインも同じってことだ」

デインの復活劇の裏でベグニオン元老院の――正確にはルカンの陰謀があったことはとっくに掴んでいる。その目的がデインを手中に収めるためなら、自ずと血の誓約という結論に辿り着く。
更に質の悪いことに、誓約を結んだのがルカン個人とデイン王国という形であるが故に、キルヴァスのように抜け道から逃れることもできず、皇帝軍に勝ち目のない戦いを挑み続ける――あまりのことに内心同情する。

「分かった所でどうしようもないけどな。皇帝軍に言ったところで、元老院がデインを潰すだけだ」
「……そうですね」

デイン軍には3年前共に戦った者たちもいる。彼らは大丈夫だろうか。そんな不毛なことばかり考えてしまう。

皇帝軍の陣営についた時、ミリアは体が一気に重くなるのを感じた。凄まじい量の負の気だ。

「見ての通り、今皇帝軍はデイン軍とのぶつかりあいの寸前です」
「ゴルドアの竜鱗族の手を借りて停戦を持ちかけてみたが、あやつら、それでもやめようとせぬのじゃ」

サナキたちからおおよその状況を聞かされる。戦いをやめたくてもやめられない状況を知らない皇帝軍の面々は呆れるしかない様子。

「デイン軍の襲撃で私たちは大打撃を受けました。これからの戦い、少しでも戦力を惜しめばその隙を突かれてしまうでしょう」
「それで、あんたたちが戦場に出てる間、神使の護衛をしろってことか」
「はい。お話が早くて助かります」

キルヴァスすら駆り出さなければならないほど、状況は切迫しているということか。

「…………」
「時にそなた、顔色があまりよくないように見えるのじゃが……」
「……そうですね。人より少しだけ正の気に寄ってるだけの私でこれだから……」

眩暈がして、その場に蹲る。

「じ、嬢様!」
「大丈夫ですか!?」
「ったく、神使のお守りでこっちは手一杯だ。お前の面倒まで見きれないぞ」
「分かってます……王が手を煩わせなくとも……」

こんなに膨大な負の気にあてられたことなんてなかったから、自分はこんなにも弱いのかとため息をつきたくなる。この場に立てる者たちが羨ましい。

「仕えさせてもらってる身で悪いが、天幕を用意してもらえるか? ミリアとニアルチをそこに置いておきたい」
「当たり前じゃ! シグルーン、すぐに用意せよ!」
「はい!」

ネサラやサナキの声、そしてシグルーンの足音を耳にしながら、ミリアは気を失った。

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