神と人

石になってない者たちが一斉に集う。ある程度以上の力を持った者たち、それに光に包まれた時にアイクたちがいた建物にいた者たちは全員無事だという。

「……思ったより、動ける者が多いみたいね。よかった……これなら、まだ彼女に対抗できるかもしれない……」
「待てよ、ミカヤ!」
「私、ミカヤじゃないわ。何度もそう言ってるじゃない」

少し様子のおかしいデインの巫女ミカヤ。正の気に満ちた空気の中で負の気を漂わせている様子は少し奇妙だ。
どうやらミカヤ自身は別の者に体を貸しているようで、その者はユンヌと名乗った。
そして、メダリオンの中で眠っていた者だとも言う。

「じゃあ、お前が封じられていた邪神なのか?」
「邪神……? 私は邪神なんかじゃないわ。私は聖でも、邪でもない。私は自由。私は混沌。私は変化。私は謎。私はユンヌ」

多くのベオクやラグズを石にしたのは彼女なのかと問うが、彼女にそんな力はないと、そして、女神アスタルテのしたことだと答えた。女神は人を滅ぼすことにしたと。

「な、何を言うのじゃ!  女神アスタルテがこのようなことをなさるはずがなかろう。女神は唯一にして至高の存在、この世界の全てを生み出されし母。常に我々を優しく見守り、正しい道へと導いてくださるお方なのじゃ」
「あなた、間違えてるわ。アスタルテはそんな人にとって都合のいい存在じゃない。だって、彼女は聖でも邪でもないもの。彼女は束縛。彼女は秩序。彼女は安定。彼女は過去。彼女は答え。彼女はアスタルテ」

彼女の主張が納得できない。人々を滅ぼすと言われていたのはメダリオンに封じられていた邪神だと、つまりユンヌになる筈なのだ。
それを指摘すると、ユンヌはへそを曲げてしまった。代わりにミストを指名し、彼女と話すと言い出す。正の気が好きだから、それが強いミストがいいという言い分だ。
当のミストは戸惑いながらも順を折って確認してくれた。
アスタルテは正を、ユンヌは負を司る一対の存在。彼女はいうなれば負の女神。
負の気で目覚めそうな所に、解放の呪歌で目覚めさせるようにミストや鷺の民に声を送り、そしてその通りに目覚めた存在。そうしたのは、本来ならこのような事態を防ぐためだそうだ。

「いい? 時間が無いから簡単に説明するわよ。昔々、あなたたちのご先祖がアスタルテと約束をしたの。1000年の間、大陸全土を巻き込むような戦いはしません……って。約束を破った時には種族が滅ぼされても文句は云いませんってね。だけど人たちはやっぱり戦い続けた。そしてとうとう、大陸を覆うほどの負の気が撒き散らされて……この状態になってしまったのよ」

その約束通りに人たちは石にされたと感じるが、ユンヌはそうではないと。アスタルテの独断だと言い、人たちを戻すために動くつもりだそうだ。
それにはこの場にいる者たちがユンヌに従うことが必要。皆、人々を元に戻せるなら、と快諾する。

「決まりね! じゃあ、早速だけど……みんなを3つの隊に分けるわ」
「何故だ?」
「私がやろうとしてることを、アスタルテが黙って見過ごしてくれるとは思えない」

全滅を避けるため。アスタルテの妨害自体は、いきなり石にしてくるような大きな力は使えないが、どうなるか分からないそうだ。
アイクに力を与えた後、ユンヌの指示の元で部隊を分けていく。
部隊の中心になるのはそれぞれアイク、ミカヤ、ティバーン。ミリアはミカヤの部隊に入ることになった。

「うん! 大体、こんな感じね。3つの部隊にはそれぞれ別々の道を辿ってもらうわ。最終目的地はみんな同じ。ここからずっと南……あなたたちがベグニオンと名付けた土地の中心に大きな塔が立っている。人たちは導きの塔って呼んでいるわ。そこを目指してちょうだい。
……みんな生きて辿りついてね。待っているから」

そう言い残したと思うと、小鳥が飛び立つ。ユンヌはミカヤの体から出ていったようで、ミカヤに戻っていた。
クルトナーガの提案で、別々の部隊に分けられた鷺の民にヤクシの石を渡し、それで連絡が取れるようになった。
軽く準備を整え、各部隊、出発していった。
目指すは導きの塔。互いに、別の部隊の無事を祈りながら。

[ 69/84 ]
prev | next
戻る