黎明 2
「王子! お待ちください……!」
リュシオンを追うべくミリアは飛ぶが、下手に飛べばニンゲンたちの戦いに出くわす可能性がある。それを避けようとしていたら、リュシオンを見失ってしまった。
「ミリアか!? ここで何をしている!」
不意に声かけられ、振り返るとそこには待ち望んでいた人物――ティバーンたちが。だが、肝心のリュシオンがいなくては意味がない。
「いや、今はいい。リュシオンはどこにいる?」
「祭壇に……。急いで追わなくては……!」
ミリアはそのまま飛び出す。ティバーンとヤナフ、ウルキも慌ててミリアを追い飛び立つ。
何とか、リュシオンに追い付く。もう少しで祭壇に着く所であった。
「リュシオン! 無事か!?」
「ティバーン!? どうしてここに?」
「ニアルチから、何もかも聞いた」
ティバーンの言葉にリュシオンは萎縮する。
「……あ……申し訳ありません……あなたに何も告げず、勝手なことをして……その挙句、こんなことに……」
「王子は何も悪くありません。全ての責任は、キルヴァスにあります。鷹王、王子をフェニキスに送り届けるまでは同行させてください。処罰は、その後に何なりと……」
ミリアは深く頭を下げる。
「全く、お前もニアルチみたいなことを言うな。当然、そのつもりではあるがな。
リュシオン、無事ならそれでいい。帰るぞ」
「……少しだけ、待ってください。あのニンゲンどもを……このまま森に残しておけません……」
「王子!」
「気持ちは分かるが、いくらなんでも、多勢に無勢だ。日を改めてからに……」
「祭壇に辿りつければ……奴らを一掃できます」
その言葉にティバーンもリュシオンの心積りを察し、目を見開いた。
「まさか……禁呪を使うつもりか!?」
「はい……【滅亡】の呪歌を聞かせてやります……」
「だめだ! それは承知できん」
「あなたの許しが得られなくても……私はやります! 一族の報復なんです……! 森もきっと……それを望んでいる!!」
先程の森の呼びかけを、リュシオンはそう解釈したのだろう。だが、ミリアには色を失っても尚美しいあの呼びかけがそんなことを訴えているとは到底思えなかった。
それは鷺の誇りを汚すことだと分かっていても、ニンゲンへの憎しみを訴えかけるリュシオン。
気持ちは同じだと、ティバーン、それにヤナフとウルキも呼び掛ければ、多少の平静を取り戻したか、禁呪を使うことはやめてくれた。
とはいえ、話は鷹の総力で報復することに纏まっている。それでは、あまりに酷だ。
(ネサラ……お前はこんなにも負の気に支配されたリュシオン王子を見て、どう思う? リアーネ姫……私はどうしたら……)
心の中で、この場にいない大切な人たちの顔を浮かべる。幼き頃から共に育った王、あの虐殺で失われた小さな姫君を。