黎明 3
森を出ようと移動していた時、何度も繰り返されたタナス公の勢力と傭兵の勢力の戦いの場に出くわす。
「おっとと! こっちでも、またやってますね。迂回しますか?」
「そうだな、ニンゲンの勢力が2つ……一体、何をやってるんだ?」
「それは恐らく……」
ミリアがその疑問に答えようとした時、また森からの呼びかけが聞こえる。
「また、この音か。リュシオン、お前の仕業じゃ……なさそうだな?」
「森が……何か囁いています……」
そして、懐かしい言葉でリュシオンは森に問いかける。
『何だ!? 私に何を伝えたい!?』
古代語によるリュシオンの問いかけ。それに対し森は反応を返さなかった。
不意に、戦いを眺めていたヤナフが声を上げる。千里眼故に、いち早くそれに気付いたのだ。
「王! 王子! 見てくださいよ! あれ!」
ヤナフが指し示すのは、ミリアは何度も見てきた青髪のニンゲン。だが――
「あの青髪のニンゲンに背負われているのって……どう見ても……」
「白鷺か……!?」
「ま……さか……」
遠目からでも、間違いなかった。白い翼に、波打つ美しい金の髪を持つ者。それを彼は背負い、剣を振っている。
青髪のニンゲン――ひいては白鷺を守るため、傭兵団の幾人かが彼を取り囲むようにしてタナス公の兵を迎え撃っていることにもようやく気付いた。
「……ベグニオン側じゃねえ奴らは、あの白鷺を庇って戦っているようだな……不本意だが加勢するか。ヤナフ、ウルキ、行くぞ!」
「はっ!」
ミリアは自分の身の振り方に迷う。戦いたい、けどミリアにその資格はあるのか。ティバーンに問う。
「鷹王、私は……」
「好きにしろ。大方1人で何とかしようと飛び出したんだろ。加勢するなり見ているなり、お前のやりたいようにやればいい」
「……ありがとうございます! 私も共に行きます!」
ティバーンの言葉で決心がついた。森を、鷺を守りたい気持ちは同じだ。
更にはリュシオンも懇願する。
「ティバーン! お願いです……私も一緒に……!」
「……禁呪を使わないと誓えるなら、ついて来い!」
「……はい!」
ティバーンを始めとする鷹たちは即座に化身してタナス公の兵を蹴散らす。
ミリアはそっと深呼吸する。タナス公に下手に姿を見られ、キルヴァスが逆らったと勘違いされては元も子もない。慎重に。
タナス公からは見えない位置に出て、化身する。久々の戦いにかなり気が高まっている。
そのままタナス公の兵に突撃し、嘴で引き裂く。
鷹はともかく、鴉の乱入に傭兵たちは些か戸惑ったようだが、自分たちに危害を加えないと分かるとすぐに目の前の戦いに集中した。
(獣牙の戦士も信用する傭兵たち……まさか、敵としてじゃなく味方として戦場に立つなんて!)
今までに感じたことのない言い知れぬ興奮。高揚した気持ちはいつしか、胸の内に燻っていたニンゲンへの憎しみを融かしていることにこの時のミリアはまだ、気付いていなかった。