我が名は混沌 4

敵たちは思ったよりも強かった。何とか退けたが、彼らの多くは隊長位までで、これほど強いのはおかしい。
そう訝しる中に一声入る。

「アスタルテの加護よ」

いつの間にかユンヌが戻ってきていた。戦いの気を感じて、ミカヤに知らせて彼女も慌てて戻ってきたと言う。

「どうやらアスタルテは……自分の手先になりそうな者だけ、石化を解いたみたい。武器や鎧に加護を与え、己の使徒とした――さしずめ、正の使徒というところね。加護の力は、アスタルテに近付くほど強くなる。道を進み、あの塔に近づくほど……敵は強力になってくるはずよ」

かつての漆黒の騎士やアシュナードの鎧、それからベグニオンの至宝であるラグネルやエタルド、それらと同じものらしい。もっとも、それらに比べればその力は弱まってるが、それでも元より何倍も強くなっていると。

「哀れな者たち……彼らは、自分が生身に戻ったことで、女神に選ばれたのだと思い込んでる。でも、彼女にとっては誰もが不完全な存在であり、等しく存在する価値がない。アスタルテに従う限り、人たちには生き残る術はないのに……用意が整えば、結局は使徒たちも石に戻されるのに」

ユンヌは彼らをそう評した。かえって不気味さすら覚えるくらいに盲信的な姿に対してそれは的を射ている。
その加護と同じことがこちらもできないのか、ネサラがそう問うと、今はまだできないと答えが返ってくる。
あの厄介な者たちより更に強い者たちに、今のままで挑まなくてはならないということか、ミリアは内心うんざりしそうだ。せめて少しでも戦力が増えてくれればいいものを。
今回のことは今後は注意を払い、他の隊にも、リアーネからリュシオンやラフィエルに伝えるということで話は纏まった。

「さっきまで体の調子がよかったが……やっぱり戦うと少し調子も悪くなるな……」
「ミリア嬢様、大丈夫ですかな?」
「この程度、慣れたことだ。少し休めば平気だ」

いくら戦いの腕前を鍛えても、常人より負の気に敏感な体質はどうにもならない。1度倒れている以上、ニアルチもミリアの様子に過敏になってしまっているようだが、皮肉にも全てが石化し、逆に頭がぼんやりしそうなほどの正の気に満ち溢れているこの状況が、ミリアの回復を早めている。
直前まで寝ていた寝床に、再びミリアは戻っていった。

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