さまざまな歪み 4
こちらの戦力の不足が否めず、このままでは負けてしまう、そう思った時だ。
敵陣の真ん中で何者かが敵をどんどん倒していた。
「……っ、騎士様!」
ミカヤがその姿を見つけて声を上げる。
漆黒の鎧に身を包み、神剣エタルドを振るうその者は、間違いない。漆黒の騎士だ。
ミカヤが漆黒の騎士の元へ駆け寄る。ミカヤのいた場所に取り残された人物を見て、ミリアは驚く。
「ソーンバルケ! こんなところに」
親無しの宿命を背負った剣聖ソーンバルケ。まさかこんな所で会うとは。
「外が妙に騒がしくて来てみれば、我が同胞が襲われていたのでな。お前たちもいたのか」
「ああ。石になった人々を戻すために戦っている」
「石……? 何のことだ?」
「……知らないのか?」
とぼけている、ということはない筈。集落の長を務めていると聞いているから、民だって石になっているだろうに。
「何やらただならぬことが起きてるようだな。後で詳しい話を聞かせてほしい」
「当然だ。お前がいてくれるなら心強いことだしな」
意外な人物に会えた喜びや、不本意ながら漆黒の騎士の存在で不利だった形勢はやがて逆転していった。
ルカンはいつの間にやら逃げおせたらしく、残っていたのはヌミダ公爵。
「しぶとい奴」
あのような小者、すぐ死んでるものと思っていたが。
「危険な戦いでは人を見捨ててすぐ逃げるような奴が……逆に見捨てられた。ふさわしい末路だな」
デイン出身の者たちの怒りを、報いを一遍に受けて。彼は討たれた。
「清々したか?」
「うん!」
デインを苦しめた元凶を討ち取って、エディだけでなく、デインの者たちの顔には晴れ晴れとしたものがあった。
状況が解決したわけではないが、相応の報いを与えられたことが彼らは嬉しいのだ。
「さて、残るは……」
意気消沈したサナキは恐る恐るといった様子で、シグルーンやタニスと話し込んでいた。
「……彼女は神使でなくても、正当な皇帝ではある筈。誓約も認めているしな」
きっとシグルーンやタニスもそれを理解しているし、彼女たちがサナキに従うのは神使だから、皇帝だから、ではない。
ミリアたちがサナキの人柄を信じて、身を預けているように、彼女たちも、サナキの人間性を信じて仕えている。それを理解し、胸を張ればいいだけのこと。
今の彼女にこそ、上に立つ者としての自信と構えが必要。けれども大丈夫、今まで彼女はそう在れていた、自分の立場が揺るぎないことさえ理解したら、自ずと取り戻せる。