再生 2
いよいよ、明日、塔へ。
そこには間違いなくルカンがいる。ずっとネサラを苦しめていた元凶がいる。
ミリアはますます気持ちを張り詰める。
「いけません、ミリア嬢様、今からそんなにピリピリしていてはいざという時に参ってしまいますぞ」
が、ニアルチに目敏く察されて指摘される。言葉が出てこない。
「……それは、そうだが……」
「お気持ちは察するに余りあります。爺めも、幾年も望んでいた機会が目前にあるのですからな」
「……私たちだけじゃない。王はもっと……」
どんな汚名でも1人で被り、民たちを守ることに徹していた、表に出さないがずっと苦しんでいたネサラはこの機会をどんなに待ち受けていたか。
「ですから、焦ってはなりませぬ。女神のお言葉の通り、今はじっくり休んで英気を養わねば」
「そうだな……。ちょっと、外を散歩してくる。気分転換も必要だしな」
天幕から出て外を歩く。
「……って、何をやってるんだか」
少し歩いて、何故か決闘している所に遭遇してしまった。
「おお、これは麗しき黒翼の君よ。此のような場ながらも再会が叶ったこと、実に喜ばしい」
「……久しぶりだな」
2人の騎士が決闘をし、ユリシーズはその立会いに携わっていた。エリンシアやルキノも見物している。
「で、彼らは何をやっている?」
「御覧の通り、我が主レニング様と我が友ジョフレが、女王の一の騎士の座を巡り決闘を広げています」
「……く、くだらない……」
高潔な騎士が揃いも揃って何をしているのやら。
「時に黒翼の君よ、我が主レニング様を其の目に映したなら、何か想起することが貴女には有る筈」
「……?」
レニングを見て思い出すこと……。ミリアは少し逡巡し、そして、
「……あの時の!」
3年前の戦いで、ミリアが咄嗟に命を奪わなかった将ベウフォレス。彼の正体がエリンシアの叔父レニング卿だったのだ。
「レニング様はなりそこないの薬で精神を破壊され、苦しまされてきた」
「……なるほど、再生の呪歌か」
かつてなりそこないの薬で歪められた竜ラジャイオンを救った歌。それを彼にも謡い救ったということ。
「左様。レニング様は貴女に命を救われ、白翼の君の呪歌で回復された。我らがクリミアは鳥翼の者たちに多大なる恩を作った」
「……呪歌のことは確かにそうだが、私のことは偶然に過ぎない。感謝は必要ない」
「だとしても、謝辞を述べなくては我輩の心の暗雲が晴れない故」
「……分かったよ」
相手がどうしても、と言うのならそれを固辞するのは不毛だろう。素直に感謝の言葉を受け取った。
そうやって人と話しているうちにいつの間にか、張り詰めていた気持ちも解けていた。偶然とはいえおかげで今夜は穏やかな気持ちで眠れそうだった。