黎明 4

タナス公も倒れ、残った兵たちは投降し、戦いは終わった。
ようやく落ち着き、青髪のベオクの元へと近寄る。

「あんたは……!」

リュシオンを見た彼は驚いた様子だが、そのリュシオンは声が震えている。

「……その……お前の……背にいる者は……?」
「あ、この娘か。あんたの知り合いだと思うんだが……」

気を失っていた白鷺も目覚めたことに気付いたベオクが背から降ろす。
そこでようやく、白鷺の顔を見て、ミリアは背筋が震えた。
20年前、失われたと思っていた小さな姫君。あの頃から成長しているが誰なのか分かる。20年の時は彼女を美しくし、それでいて無邪気な瞳はそのままだ。
彼らは古代語で、再会を喜ぶ。

『リアーネ!』
『リュシオン兄様!? 兄様! 兄様!』
『本当にリアーネなのか? 夢じゃなく……?』

古代語で話していたリュシオンだが、やがて現代語で言葉を紡いでいた。

「……どうして、お前が……? いや、そんなことより……よくぞ……生きて……」

リュシオンが感動にうち震える。

「リアーネ姫……」
『……ミリアね?』
「はい、ミリアです……たった1人で、心細かったでしょう? もう、大丈夫ですから……」

リアーネの手を取り、そっと包み込む。もう会えないと思っていたのに、運命とは奇異なものだ。

「リアーネ、俺が分かるか?」
『ティバーン……? 鷹の民の……?』
「そうだ。よく覚えていたな。20年もの間、ずっとここにいたのか?」
『よく分からないの……あの夜……姉様たちが私を祠に隠して……きっと、私に……呪歌を聞かせて……そうしたら、とても眠くなって……』
「森が……守ってくれていたようです。ずっと眠らせて……どんなに感謝しても足りない……」

滅びて尚、眠るリアーネを守り続けていた。そうして今日まで、リアーネは命を繋ぎ止め、目覚めと再会を迎えた。

『ありがとう……心から、感謝する……』

リュシオンの森への礼。応えはないが、きっと届いている。

「おい、そこのベオク」
「俺か?」

青髪のベオクが目を瞬く。

「俺はフェニキス王ティバーン。国を追われたセリノス王族の後見をしている。お前は何者だ? 何故、鷺の民を助けた?」
「俺はアイク。グレイル傭兵団の団長だ」

そこでミリアは、今までに何度も見かけたベオクの名前、傭兵団の名前を初めて知った。クリミア王女の護衛をしていることは知っていたのに、名前は知らなかったのは少し滑稽だ。
だが、続いた言葉にはミリアも耳を疑った。

「俺は、この国の皇帝……【神使】サナキから、鷺の民の保護を依頼されて来た」
「この国の皇帝が鷺の民を保護する!? そいつは、面白い冗談だな。先代の皇帝を暗殺した咎で、鷺の民は滅ぼされた。その後継者たる現皇帝が、鷺を助けるよう動いたりするか?」

そうなのだ。鷺の民は皇帝を暗殺したなどという、ありもしない罪を擦り付けられて滅ぼされた。それがベグニオンとフェニキスの確執のきっかけだ。
なのに現皇帝は、それが冤罪だと知っていて、罪を償おうとしていると言うのだ。
そんなの、信じられる訳が無い。今まで見てきたニンゲン、特に権力者たちは自らの利のみを追求し、その地位を守ることしか考えていない者ばかりだったのだから。

「……口先だけなら、何とでも言える! セリノスの森を焼き、我が兄弟、我が民を死に追いやったニンゲンども……その仲間を信じることなどできない!」
「……信じるかどうかは、本人に会って決めればいい。神使は、この森の入口まで来ている」
「神使が、ここに……?」

これにはミリアも驚く。権力者は自ら動くことなんてしない者ばかりと思っていたのに。
話だけでも聞こう、と入り口まで皆、赴くことに決まった。

[ 9/84 ]
prev | next
戻る