再生 4

ある程度戦えば交代し、ある者たちが休憩してる間は別の者たちが戦う。そうしてローテーションしながら、死した戦士たちと戦い続けていた。

「時間が経つごとに強くなってるな……」
「女神がどんどん力を溜めていってるって訳だ。あいつらが中で死んだりしてたらオレたちも一巻の終わりだな」
「不吉なことを言ってる暇があれば戦え!」

自嘲的に笑うライにミリアが一喝する。
塔に入った者たちが中で倒れているかも――そんなことは、考えたくもない。
血の誓約が解かれないままネサラが死ねば恐らく次はミリアの腕に誓約の証が浮かび上がる。今のところそれがないということは、少なくともそのような事態にはなっていないということ。今のミリアが中の状況を推測する手段はそれだけだ。
隙を見ては自分の腕を見るミリアにラフィエルが近寄る。

「……信じましょう。彼らを……」

ミリアの様子から察したラフィエルが幼子をあやすように優しく微笑む。

「ラフィエル王子……」
「女神の力によるものでしょう。ヤクシの石で声を届けることもままなりませんが……ティバーンも、我が女王もいます。きっと大丈夫ですよ」

圧倒的な強者が待ち受ける塔に入るは、また強者たち。

「けれど、それでも……もしかしてと思うと……不安で……」

ラフィエルは眉根を下げる。

「……戦い続きで、参ってしまったのですね。あなたは人より正の気に寄っていますから……。私たちと一緒に少し休みましょう」

幸いもうすぐミリアの休憩時間でもある。ラフィエルはミリアを前線から連れ出した。
後方で、ミリアをはじめとした休憩する者たちに向けて、ラフィエルは喜樂の呪歌を謡う。今生きている鷺の民の中で最も鷺の民らしく、それ故強い力を持つラフィエルの歌は、皆の心に安らぎをもたらす。
ミリアの不安も、和らいでいく。

「……ありがとうございます」

ラフィエルの気遣いは、ミリアを再び奮い立たせた。

ルカンら元老議員たちを打ち倒し、血の誓約書を取り戻した。ミカヤの手で破かれてデインは自由になった。ネサラの手に戻り、キルヴァスは自由への足がかりを得た。
正体を現した漆黒の騎士――ゼルギウス。アイクと本当の決着を着けて、喜びと悲しみを胸にゼルギウスはこの世を去った。封じられていたアイクの幼い頃の――母親を失った際の記憶も戻った。けど、その勝利の裏には孤独があった。
黒竜王を始めとした竜鱗族との戦いは苛烈を極めた。勝利を収めたものの、全てを知って和解した王は、戦いの傷が元で逝ってしまった。民たちを、子供たちを想い、クルトナーガに、王の座を託して。
そして、人に絶望し、裁きを望み、女神を目覚めさせるよう仕向けた全ての黒幕セフェランと対峙した。絶望に堕ち、そのまま死にゆく筈だった彼はミカヤとユンヌに救われた。
最後に、女神と対峙した。自らのしたことの始末を付けるため戦うことを選んだセフェラン――否、黒鷺エルランも加えて。
最後は、ユンヌの力の全てを受け取ったアイクの一撃で決まった。
アスタルテが死に、消えゆくのと共に、ユンヌも消えゆこうとしていた。最後の力を振り絞って、人々を元に戻した。
人々が再び営みを始め、戦いをしていた者たちは戦いをやめたのを見届けて、ユンヌは消えていった――
女神のいない、新たな時代、人の世の幕開けだ。

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