喪失 2

気が付けば、セリノスの城の一室でただ眠っては目を覚まし、また眠るだけの日々を過ごしていた。
セリノスは正式に返還され、フェニキスと統合された。キルヴァスもティバーンの意によりそこに加わり、新たな国の一員として過ごしている。

「……また、食事に手もつけずか。貴重な食糧なんだから、無駄にしてほしくないんだけどよ」

鷺と鷹や鴉、それぞれ食生活が大きく違うから、共に過ごすにはいくつも壁がある。おかげで食糧の確保も困難を極めていた。机に置かれたままの食事も、僅かな食糧から出しているもの。
ふと、民たちはちゃんと食べられているのか、気になった。

「……鴉の民は、ちゃんと過ごせているのか?」

今まで何の反応も示さなかったミリアが話しかけてきたことに目を丸くしながら、ヤナフは呆れたように息を吐く。

「……気になるなら、自分の目で見ろよな。あんたが使い物にならないからティバーンが預かってるってだけで、鴉どもはまだ、あんたの民なんだ」
「…………」

今まで見もしなかった窓から、外を見下ろした。
今まで暮らしてきた地とは全く違う場所に戸惑いながらも順応し、鷹たちと入り交じりながらも、彼らは確かに生きていた。
それなのに、自分は何をしているのだろう。ただ王としての責務も何もかもを放り出して、眠くなったら眠り、目を覚ましている間はただ何もせず呼吸をするだけ。
このまま飢える前に、やることがまだある。

「……話を、民に。ちゃんと話さないと」

寝台から立ち上がろうとすると、ヤナフが慌てた。

「お、おい、どうしたんだよ! ずっと飲まず食わずだったのにいきなり動いたら……」

立とうとして、ふらり、とよろける。

「ほら、言わんこっちゃない……っ、ウルキ! 聞こえてるだろ! 爺さんを呼んでくれ!」

ヤナフはミリアを支えるとそのまま肩を押さえ無理矢理座らせ、叫ぶ。
程なくして、ウルキがニアルチを引き連れて来た。

「あわわ……嬢様……一体どうしたことで……」
「……ニアルチ、民に話をしたいんだ。集められるか?」
「そ、そういうことでしたら! 少しお待ちくだされ!」

慌ただしくニアルチはまた去っていった。

「……とりあえず、入るぶんだけでもいいから食え。そのままじゃまともに立てないだろ」
「……そうだな」

ヤナフが持ってきた果物の盛り合わせを口に入れる。それすら完食できないほど弱っていたが、さっきより幾分ましな状態になった。
ニアルチが鴉の民全員集めてきたと知らせに戻ってくる。思っていたより早い。それだけ、待っていたのだろう。
彼らの手を借りながら民の元へ。初めて、将としてではなく、王として、民の前に立つ。