Whose shirt?




立川に本部が移って1日が経った。

私はといえば仮眠スケジュール管理を請け負ったため、2時間おきに仮眠室へ行き、ゴミ出しやら食事の用意をしながら常に洗濯機を回していて気がつけば朝になっていた。

乾いた洗濯物を取り込んで畳む。

「失礼します。洗濯物なのですが、どなたのか分からないためこちらに纏めて置かせていただきます」

「はーい」とまばらに返事が返ってきて、ピンクのタオルや女性もののブラウスには心当たりがあったので本人に渡す。

とそこへ、矢口さんと志村さんがやって来た。
相変わらず忙しそうに指示を出しながらパソコンを広げ大量の書類に判を押している。

「なまえさん」

「あ、えと」

「志村です」

高い位置から優しい声が降ってきて、自然と微笑む。

「志村さん、おはようございます。アイロンのかかっているシャツなんですけど…」

言いかけると志村さんは真剣な顔で私の手からするするとシャツを取り上げた。

「このラファブリックのストライプと襟首にこの色のボタンが付いてるのが先生の。」

「え!はい!」

急いでメモを取り出してラファブリックと書き留めると、志村さんは頷いてまたシャツを取り上げた。

「バーニーズニューヨークのこの襟と、袖が長いやつが僕。鎌倉のあれと、これは、森さんで、」

横から覗き込んだ安田さんも「僕のはこれとこれ、ユニクロのM」

「安田さんユニクロなんですか!?」
「なんだよいいだろ別に」
「志村はユニクロユーザーを全員敵に回したな」
「俺エディフィス」
「僕のはメイドイン台湾だから!シワシワでも構わないよ!」
「あ、俺ブリックハウスの水色!アイロンは志村くんと副長官のだけでいいからね」
「ブリックハウスユーザー多いから、それだけでまとめてくれていいよ」

皆仕事の片手間に自分のシャツを教えてくれながら洗濯物はあっという間にはけた。

メモにはびっしりとシャツのブランドと特徴と名前が書かれている。

「ご協力ありがとうございます!頑張って覚えます!」

ほくほくと笑みを返してメモを仕舞う手を止められた。振り返ると矢口さんが真剣な顔で私とシャツを交互に見た。

「いや。これじゃなまえさんに負担が大きすぎる。もし嫌じゃなければ皆タグに名前を書こう。」

言いながらデスクに置かれた油性ペンで矢口さんは洗い立てのシャツのタグに「矢口」と書いた。

「ひっ!?」

と思わず声が出てしまい慌てて矢口さんに小声で囁く「矢口さんそのシャツ…オーダーメイドの高いやつじゃ無いんですか…!?」
矢口さんはコテンと首を倒して笑った。「シャツなんて消耗品だろう。タグが他人から見えるわけでも無いし」


言いながら、今来ているものにも書いてしまおうとズボンの裾からシャツを出そうとする矢口さんを押し止めた。のだが

「なるほど、さすが副長官〜」
矢口さんの一言で安田さんや森さんに始まり、志村さんや尾頭さんまでキュキュっとタグに名前を書いてしまった。


巨災対のだれもが矢口さんを尊敬しているのはここ数日で何となくわかってはいたが、誰一人文句も言わず洗濯物に名前を書き込んでくれる現状を見ると、この人の人を動かす力は人並み以上だと思い知らされた。
一番高いシャツを来ている人間が率先して名前を書いてしまったのだからしかたがない。

「…ありがとうございます…助かります…!」

深々と頭を下げるとそれはこっちのセリフですよ、と間さんが微笑んだ。


洗濯カゴを持って屋上の階段を駆け上がると、矢口さんの背中が見えた。

あれ?なんで屋上に?という考えがよぎったが先ほどの例をと、階段を登りきりそのままの速度で矢口さんの背中に駆け寄った。

足音に築いたのか矢口さんが振り返る。

「なまえさん」

「おタバコ、ですか?」

「僕は吸いません」

そう言って苦笑する矢口さんは、逆光のせいかひどく疲れて見える。いや、実際やつれて疲れているのだ。

「少し座りませんか?」

そう声をかけて備え付けのベンチに矢口さんを引っ張っていった。

どかりと座り込んだ矢口の前にしゃがみ、不思議そうにしてる顔をおしぼりで拭った。

「また、臭うか」

「また?いいえ、そんなことないですよ。気持ちいいかなぁと思って」

鼻の横、耳の裏、首、おでこ、丹念におしぼりで拭って、乱れた髪を手ぐしで整えた。

「気持ちい」

「良かったです」

目を閉じたまま微笑む矢口さんの呼吸が深くなるのを感じて締めようとしていたネクタイを緩めた

そのまま体を支えてベンチに寝かすと、そばにあるおしぼり機から新品のおしぼりをとりだし、手の上で冷ましてから矢口さんのひとみの上に乗せると「うあ〜〜」と気持ち良さそうな声が聞こえる。

「はなしを、しよう、と、きみを、まっていた」

「あら?そうなんですか?」

ぽつぽつと寝言のように喋る矢口さんの頭を梳いてやりながらお腹に干してあったブランケットをかけた。

「ん、んん、君…」

すぅと言葉が夢の中へ消えてゆく

「はい、矢口さん」

返事をしてから立ち上がり、洗濯物を取り込んだ。

「ちゃんと起こしますからね、安心してください」

そう言って屋上から出ようとすると、作業着の裾を掴まれた。

「なまえ、、、」

「…」

「君まで、行かないでくれ、俺は、おれ、は」