ever ever
俺はカイ・イヴェールに誕生日プレゼントを貰ったことがない。
「……これはどういうつもりだ、人間」
「うーん、大切な人へのプレゼントは買いすぎちゃうんだよね」
許してよセベクくん。その言葉によってカイはセベクに沢山のプレゼントを押し付けた。
「嫌われちゃったかなあ」
ベッドに座りながらカイは心配そうに言った。
俺とカイの部屋は同室だ。それはカイが勝手に他寮に出かけて帰ってこないことが多いからでもあり、俺が寝てしまったときに教室まで連れていく役割としてカイが採用されているからでもある。お互いがお互いの監視役――意味は違えど――を担っているのである。
「アレでもセベクは喜んでいる。昔から兄上には素直じゃないからな」
「アニウエ?」
「……いえ、なんでも」
幼少期から兄のような存在として俺を可愛がってきたカイという男は、人の誕生日をオーバーなくらいに祝う。
クラッカーを鳴らし、タスキをかけさせ、人に合わせて多種多様なプレゼントを贈り、祝福する。俺は本人よりも誕生日という行事を楽しむカイを見ていることが昔は好きだった。
もっとも、カイの誕生日のすぐあとに誕生日を迎える俺が、カイからの誕生日プレゼントを受けったことは無かったが。それでもその準備に付き合って街を兄上と歩くことが好きだった。
「そういえばこの前部屋を整頓していたら色んなガラクタが出てきたんだよ」
「沢山あるな」
ほら、とカイが大きな箱を持って俺に見せた。フタを開けて中を見ると、綺麗なラッピングが施された子供向けのおもちゃから本、木剣までが揃っている。
そういえば数年前、まだ真剣を持つようになる前に木剣を欲しがった頃もあったな、と思い出す。
「これがあと三箱」
「三箱!?」
やっぱりシルバーくんからしても多いよね、とカイはハテナでも浮かべるように首を傾げた。
残りの三箱も見てくれと運ばれた箱には、やはり年代が安定しない子供向けのおもちゃばかり。魔法で動く動物の人形なんかも入っている。
「子供がいた記憶はないんだよねえ」
「あったら困る」
「そりゃそうだ」
しまい込まれ、日焼けもしていない包装紙に包まれたおもちゃを見る。どこの誰かに向けられたのかも分からないそれに、少しの嫉妬が混ざった。
「まあ子供はいないけど。昔の僕にはあげたい子がいたんだよね、多分。でも何か理由があって渡せなかった。全部渡したいんだけど、全部『Dear my brother』なんて書いてあるんだよ」
「……は」
時間が止まったような気がした。急速にピースがはまっていく感覚。毎年?毎年なんて言っても、俺が13になってからはカイも「歳の近い同居人」くらいの感覚でいたはずだ。新しいカイに少しの望みをかけて、兄上と呼んだときのあの困惑した表情を今でも覚えているのだから。俺が成長してからは、何年目でもそうだった。
「渡す人の名前くらい書くよねえ普通。どう思う、シルバーくん」
元から兄ではなかった。けれど確かに家族だった、何も知らない誰か。それがもし、俺の望んだように兄になろうとしていたのなら。
「シルバーくん?どうしたんだい?」
カイの声が聞こえる。そのとき初めて、目の奥が熱いことに気がついた。
視界が滲んでいくのが分かる。喉が震えて、声にならない声が口から漏れ出た。
「シルバーくん」
どこか痛いのかい?誰かにいじめられた?そう憂う声が、かつてを思い起こさせる。全部忘れて、全てが変わっても、この人はいつまでも変わらない。
兄上、と声でもかければ返事が返ってきそうな気すらする。
「違うんだ、カイは何もしていない」
「……それでも心配はするよ」
ぐしゃぐしゃとカイが俺の頭を撫でる。「同い年なのに弟みたいに思っちゃうんだ」とこぼしながら、カイは困ったように笑った。
俺の兄であるカイ・イヴェールという男は、頭を撫でるのが下手なひとだった。涙を拭うのも。優しい眼差しに似合わない傷痕だらけの腕で、笑いながら抱え上げられたことを覚えている。
同じ表情で、同じ仕草で、俺の涙は拭われる。他人になっても、家族なのだと言うように。いつだって置いていく兄上が、思い出すようにこうやって振り向く度に俺は困るのだ。
「お前は……」
「んー?」
「お前が、分からない」
「僕にはシルバーくんが分からないよ」
「そのせいだ」
「え?」
「兄上が、分からないから……」
目の前の、カイは知るわけもない記憶。それでも捨てられることはなかった感情。それがこのおもちゃに詰まる全てだった。
「えっと、」
「……忘れてください」
「敬語!?」
くしゃりとシワがついた包装紙は離しがたくて、中で揺れる「がらくた」は宝物のように尊い。
こうやって何度も行き場を失ったであろうカイからの感情は、同い年になってしまった俺たちには不釣り合いだった。それでも、世界中の誰にがらくただと言われたとしても、俺たちにとって、それは。
「泣かないでよ。僕さ、セベクくんやシルバーくんには弱いんだ」
それがなんでかは分からないけど。そう柔らかくカイは笑った。
今でも家族なのだと、届きもしない場所で兄上が言っているのだろう。昔からそういう人だった。それに俺たちは振り回される。
「なんでか分かる?」
「…………」
あと二ヶ月もすれば、カイは俺たちを忘れる。一人だけ置いていかれ、三年生にもなって「初めまして」をやり直すのだ。
ただの同級生でもない、しかし家族でもない彼を何と呼び、どう答えることが正解なのか、俺には分かる気がしなかった。
カイは俺の沈黙に頭を撫で、優しい声でまた捨てられるがらくたの話をする。
「……シルバーくんの誕生日ももうすぐか。シルバーくんは、何が欲しい?」
何も、いらない。家族が家族になってくれれば、それで。そう言うことの出来ない呪いが、俺にはかかっている。