試験当日。わたしは「ごはん」を訪れて、店長に挨拶をした。
今までの思い出を短くまとめてお礼を言って、ステーキ定食を弱火でじっくり、と注文をした。
「おぅ、しっかりな!」と、ニッと笑って送り出してくれた店長には大変感謝している。

昨日、散々笑っていた同僚は奥の部屋へと向かうわたしを呼び止めて「笑ってごめんっ!」「いってらっしゃいっ」と薄っすらと涙を浮かべて言ったのだ。わたしはありがとうと告げて、手を振って部屋に入った。扉が閉まる時、「いってきます」と笑顔で言って「ごはん」を去った。


部屋全体がエレベーターになっているようで下に下がり始めた。よし、ここまでは調査通り!流石、ごはんの元従業員!
今思えば良いところだった…。まかないが美味しかった。汚いお店だけどお客さんはみんな優しかった(気がする)一回だけ「不味い!」と言ったお客さんを張り倒した事があったような、なかったような…。
まぁ、今となっては全部が良い思い出ね!

思い出に浸りながら1人で、席について店長が用意してくれたステーキ定食を食べていた。
楽しい思い出はあっという間にすぎると言うけれど、これから行うハンター試験もあっという間に終わってくれれば直ぐにでも遺跡発掘調査に向かえる。

(がんばらなきゃ!)

自分に気合をいれた。体力温存も考えてステーキ定食を全部平らげたとき、ドアが開いた。
薄暗い空間。視線を感じ辺りを見回すと受験者がわたしを見ていた。中から「女かよ」と言う声も聞こえた。当のわたしは、そんな視線も声も気にせずエレベーターから降りた。そこに小さくてポテトチップスみたいな人(?)が「どうぞ」と番号札を渡してきた。


「ありがとうございます」


番号札には406と記されていた。

(406番目なんだ…、みんな以外と早く辿り着いたんだなぁ)


わたしが会場に一番近くに居たはずなのにこの番数はどうなのか。405人に先を越されてしまっていたとは、「ごはんで働いてました!」とは言わない方が良いだろう。言ってしまったら、なんか…恥だ。

ジリリリリリリリ…

けたたましい音の方を見やると、聞き慣れた声が聞こえた。その人は音を止め、自己紹介をし始めたではないか。え、試験官なのですか?ハンター試験を受けることを勧めてくれたけど、まさかここで会えるとは思っていなかった。
何年ぶりだろう、久しぶり過ぎて心が踊る。今すぐにでも駆け寄りホントに貴方なのか確かめたい。でも、ここからでは遠いっ!


「それではわたしについてきてください」


その人の指示で受験生が一斉に歩き出した。
勿論、会場に最後に入ってきたわたしは最後尾だ。
 



ALICE+