ある程度の受験者が階段を登り切って階段のシャッターが下り始めた。折角、あともう少し!という受験者がそこまで来ているのにそれでもシャッターは止まらず閉じきってしまった。その様子を見て誰もが自分じゃなくて良かったと思っただろう。周りには息の上がった者、平気そうな顔をしている者と様々だった。
しばらくして、サトツさんが話し始めた。

この湿原がヌメーレ湿原であること。詐欺師の森と呼ばれていること。そして、騙されれば死ぬ…と言うこと。
どうやら、まだ一次試験は続くようだ。そう思っているときだった。サトツさんに「そいつは嘘をついている!!俺が本当の試験管だっ」と言っている奴が現れたそいつの方を向いた。ボロボロの格好をし、何か生き物を引っ張って来ていた。

(あれは…)

ソレに見覚えがあったわたしは、サトツさんを見やった。なんてことないって顔をしている当人。当然、か。でも、受験者達はざわめき、サトツさんを疑い始めた。

その時だった…。
サトツさんに向かってトランプが飛んで来たのだ。咄嗟のことでわたしはサトツさんを庇う様に立ち、鉄扇で防いだ。飛んで来た方をみると、ピエロの様な男がニヤリと笑ってこちらを見ていた。ピエロ男の背後には先程のサトツさんを偽物呼ばわりした男にトランプが刺さり倒れていた。彼が連れていた生き物が起き上がり、明後日の方向へ逃げて行ったのだ。

このピエロ男…。

試験開始前にぶつかって謝らなかった男の腕をトランプで飛ばしていた。あえて見なかったことにしたが、今回のことは見過ごす事はできなかった。


「ハナコ、大丈夫です。ありがとうございます」

「いえ、お怪我はないですかっ?」

「なるほどなるほど…◆」

「…、彼らは人面猿。わたしたち受験生を騙し、仲間のところへ連れて行こうとしていただけです」

「何名かの受験生は騙されかけていたのではないでしょうか…。彼はどちらが本当の試験官であるかを証明しようとしていたのでしょうが、今回は大目に見ますが、これからのわたしへの攻撃は如何なる理由でも失格とみなします」

「はいはい◆」


あのピエロ男、危ない。
殺気はずっと、少なからず感じていたけれどここにきて諸に出してきている。まだ一次試験は続く…。その中で何人かを殺すだろう。こういう嫌な感はよく当たるものだ。

サトツさんがまた前に進みだした。
受験生もそれに続く。泥で足が思うように動かないけれど、サトツを追いかけた。
また、霧が出始めた。
前が見えなくなる…。サトツさんの気配を見失わない様に集中して走っていると辺りから悲鳴が湧き始めた。

(知らんぷり、しなきゃ…。)

こんな時に自分の中の良心が邪魔をする。助けたいと思ってしまうのだ。でも、これは試験であり自分の合否がかかっている。何としてもこの資格は欲しい。

けれど…。

(何事にも後悔したくない…!)


今、悲鳴が聞こえた所に向かってわたしは駆け出した。

 



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