姫と騎士02

格納庫で己の愛機のチェックをしていたデヴィッドは目を疑った。あるはずのない人間が自分のナイトメアの前でにこやかに手を振っているのだから。急いで地に降り立つと、手を振っていた人間はぱちり、と瞳を瞬かせる。

「何してるんですか!?」
「見学に」
「っていうか、護衛は!?」
「撒いてきた」

その言葉にデヴィッドは声を失う。そして、そのまま溜息と共に地に腰を下ろす。

「どうしたの?」
「ちょっと脱力しただけです」
「?」
「やっぱり普通の人間に姫さまが守られているわけないですね・・・」

乾いた笑い声を放つデヴィッドの近くにエヴァニエルも腰を下ろす。丁度、昼の休憩時間ということもあり、格納庫には自分たち以外に人は居ない。

「またコーネリア殿下やバートに怒られるぞ」
「だって、あの人たちあれも駄目、これも駄目、って言うんだもの」
「姫さまが無理を言ってるんじゃねーの?」
「そうだけど・・・・。でもね、デヴィッドたちみたいに、一緒に居たいって思わないの」

しゅん、と項垂れるエヴァニエルに誰も居ないことを確認してから彼女の頭を撫でる。項垂れる姿は庇護欲がかき乱される。

「ごめんね。お仕事の、邪魔しちゃったよね」
「構わない。終ったところだから」

デヴィッドは立ち上がり、エヴァニエルの脇の下に両の腕を差し入れる。
驚きの声と共にエヴァニエルの身体が浮き上がる。
華奢な身体を己の右肩に乗せる。

「びっくりした・・・」
「怖い?」
「怖くないよ。だって、デヴィッドだもの」

一滴の疑いも無い笑顔にデヴィッドも笑む。そのまま歩くと、デヴィッドの頭に温かみを感じた。

「あ、頭持つの嫌だった?」
「別に構わない。それにしても、相変わらず軽いな」
「そう?」
「もっと太ったほうがいい」
「女の子に、そういうこと、言っちゃ駄目だよ」
「いや、でも姫さまは軽すぎ」
「でも、抱えあがるときは楽でしょ?」
「負担は少ないけど、心配になるのでプラマイゼロ」
「もう・・。それより、何処に行くの?」
「勿論、姫さまのお部屋に」
「お、怒られる・・・」