姫と騎士01

クラウディオは愛機の調整のためにコックピットの中に篭っていた。慣れた手つきでキーボードの上を走らせる。俄かに外部が騒がしくなる。密室にざわめきの声が僅かに届き、顔を上げ、モニターを見ると、整備士や自分と同じように愛機のチェックに来ていた騎士がある方向を見ている。自分も彼らと同じようにその方向をコックピットの中から見ると、この格納庫に似合わない正装をしたピンク色の少女が見えた。まさか、と思い頭を振るも、少女は消えない。急いでコックピットから抜け出し、ハーゲンで地に降り立ち、彼女の名前を叫ぶ。

「エヴァニエル皇女殿下!!」

その声に少女の肩がびくり、と震える。騎士たちもその名に疑わしそうに自分を見る。何せピンク色の少女は副総督の格好をしているのだから。傍にいたお付きの者も胡乱気に此方を見る。

「貴様、いくらエヴァニエル皇女殿下のお気に入りとはいえ、副総督とエヴァニエル皇女殿下を間違えるとは何たる不敬!!」

お付きの者の怒声を無視し、少女の目の前に立つ。

「何ゆえ、ユーフェミア皇女殿下の服を召し、此方にいらっしゃるのですか?」
「貴様っ」

お付きの者が怒りも心頭になったのか、警備の人間を呼ぼうとするのを、少女が慌てて止める。

「姫さま」
「・・・・どうして分かったの?」

それは肯定だった。自分がエヴァニエルであることを認めた。傍にいたお付きの者は驚き声も出ない様子でクラウディオとエヴァニエルを見やる。周りの騎士や整備士も同じ様子だ。

「何故、そのような格好を?」
「・・・ユフィが、体調を崩してしまって、それで、今日は私が、ユフィの代わりを・・・」
「コーネリア殿下はご存知なのですか?」
「・・・・」

無言は肯定。クラウディオは溜息を吐きながら、大切な姫を抱えあげる。

「わっ」
「全く無茶をなさる。するなら我らに何か言ってからにして下さい」
「お、降ろして下さい」 
「無理です。歩くのも辛いのに、何を仰るのですか」
「(バレてる・・)」

足早に格納庫から出て行く2人を残った人間は見送るしかなかった。



自分で歩くことを断念したエヴァニエルはクラウディオの首に己の腕を巻きつける。人影は無く、クラウディオの足音だけが響く。

「それにしても、よく分かったね」
「?」
「私がエヴァニエルだと」
「あぁ。姫さまとは10年以上の付き合いだからね」
「それでも、他の人には全然ばれなかったのに・・・」
「多分、他のメンバーも姫さまだと気付くよ」
「ユフィにも、そっくりだって言われたのに・・」
「ユーフェミアさまと姫さまは顔立ちは似通っているけど、別の人間だからな。見分けは付く。出来ないのはユーフェミアさまや姫さまをよく分かってない人間だけ。コーネリア殿下にもバレますよ、絶対」
「・・・言うの?」
「俺が言わなくともお付きの人間が言うよ。だったら、早く自首しておいたほうが罪は軽いと思うよ?」
「・・・・そう言いながら、お姉さまの所に、歩いていってる」