姫と騎士04

アルフレッドは格納庫で愛機のチェックをしていた。ふと顔を上げるとモニターに幼い頃から大切に大切に守ってきた少女が映っていた。ナイトメアのキーを抜き、彼女の下へ駆け寄る。

「どう?」
「可愛いですよ、姫さま」
「そういうのじゃなくて」
「分かってますよ。大丈夫です」

良かった、と笑む少女はエヴァニエル・リ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国第4皇女である。そんな彼女が現在身に纏っているのは普段彼女が着ているような豪華な服ではなく、所謂庶民の着るようなもの。アルフレッドの服装もまた普段の軍服では無く、街の青年が着そうな格好である。

「連絡を寄越してくれたら迎えに行きましたのに」
「気づくかなって思って」
「私が姫さまを間違えるはず無いです」

政庁の裏から抜け出す2人。今日はお忍びでの外出。勿論、エヴァニエルの体調を見、コーネリアの許可も取った上での。護衛はエヴァニエルたっての希望でグラストンナイツから偶然、時間のあったアルフレッドが任された。街を歩くエヴァニエルの表情はとても輝いていた。

「姫さま、あんまりはしゃぐと体調壊しますよ」
「大丈夫だよ。それから、敬語も姫って呼ぶのも無し」
「…わかったよ、エヴァ」
「よろしい。アルフレッド、あれなぁに?」
「あれ?…クレープが食べたいの?」
「うん、食べたい」

アルフレッドは行こう、と手を差し出す。エヴァニエルはその手を迷いもなく握り返す。




公園の日陰のベンチで並んで座る。初めて食べるクレープに目を輝かせるエヴァニエルにアルフレッドは目を細める。

「気に入ったかい?」
「とても!」
「それはよかった」

エヴァニエルがオーダーしたのはチョコバナナ。念のために、アルフレッドによって毒味が行われている。嬉しそうにクレープを頬張るエヴァニエルを優しく見守りながらも、周りを鋭い目で警戒することは忘れない。いくらエヴァニエルが表に出ていないとはいえ、彼女はユーフェミアにそっくりなのだ。多少、公衆の前にユーフェミアは出る。顔を知っているものは少なくない。そんな人間にエヴァニエルとユーフェミアの区別が着くとも思えない。帽子で顔を隠しているとはいえ、覗き込まれたら終わりだ。一人が気付けば、それは周りに広がる。殺到した場合、エヴァニエルに懸かる負担は大きい。それを避けるためにも、周囲への警戒を怠るわけには行かない。

「アルフレッド?」
「食べ終わった?」
「うん。・・・何かあったの?」
「何もないよ。エヴァの行きたいところへ行こう」
「うん。街を見て回りたいの」
「見るだけでいいの?」
「うん。付き合ってくれますか?」
「イエs・・・いいよ」
「抜け切らないんだね」
「エヴァはどこでもエヴァのままだね」
「ありがとう」
「褒めてないよ」
「!?」
「あはは、冗談だよ」
「ちょっと泣きそうになった・・・」
「え、うそ!?ごめんね、エヴァ!!」