姫と死

平穏な生徒会室で平穏を突き破る悲鳴が発生した。発生源はいつも愛らしく微笑み、優しい言葉しか紡がないエヴァニエル。拒絶するかのように頭を振っても視線はテレビに釘付けで、離そうとしない。

「エヴァニエル、どうしたの?」

ミレイが心配したように声をかけるが、耳に届いていない様子。

「いやっ、いやっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

爆発した機体、それはエヴァニエルが最も良く知る人物たちだけに与えられた機体。誰かが死んだのだ。誰かが。エヴァニエルの良く知る人物が。エヴァニエルにとって大切な人間が。エヴァニエルの幼なじみが。グラストンナイツの誰かが。




帰還したグラストンナイツは3人。グラストンナイツは5人で形成されている。2人足りない。2人はもう帰らない。帰りたくとも帰れない。あの優しくて泣き虫で自分たちが何よりも大切な少女の下に帰れない。仲間を失ったことを彼女に伝えにいくのが憂鬱だ。何故死んだと罵倒することも出来ない仲間たちは肉片1つ残さずに散ってしまっ
た。せめて遺体だけでも彼女の下に帰してやりたかった。暗い面持ちで少女の自室の扉をノックする。かちゃり、と扉が開く。お帰りなさい、と少女が何も知らない笑顔で出迎えてくれると信じていたが、出てきたのはエヴァニエル付きの看護師だった。

「エヴァニエル様は現在お眠りになられております」
「こんな早い時間から?」
「いえ、学校で体調を崩されたのです」
「……だ、れ?」

か細い声が4人の耳を打つ。寝室の扉から今にも崩れ落ちそうなエヴァニエルが立っていた。デヴィッドが慌てて駆け寄り細い身体を支える。

看護師が下がり、室内にはエヴァニエルとグラストンナイツの3人が残された。

「姫様、ベッドに戻ろう」

デヴィッドの言葉にエヴァニエルは素直に頷き、ベッドに下ろされると尋ねた。

「アルフレッドとバートは?」

3人が困ったようにお互いの顔を見る。伝えなければならない。他の人間の口から聞かされるより自分たちの口から伝えたほうがいい。しかし、彼女の現在の体調を見るといまは伝えないほうがいい。

「2人は整備に行ってるよ」
「うそ」

エヴァニエルの瞳は涙で溢れている。

「うそ、吐かないで。が、学校で見た、もん。赤いナイトメアにっ、グロースターが、掴まれてっ」
「もういいっ!!!!」

涙を堪えながら嗚咽まじりに必死でその様子を語るエヴァニエルをデヴィッドは抱きしめる。

「もういい、もういいから」

もうこれ以上話さなくていいから。もうこれ以上思い出さなくていいから。デヴィッドの背に腕を回す。溜まっていた涙が一粒零れ落ちる。

「あ、あれは、だれ、だったの?」
「・・・・アルフレッドだよ」

エドガーの答えにそう、と呟き、バートはどうして死んだの?と尋ねた。求めていた答えをクラウディオから貰ったエヴァニエルは堰を切ったように声をあげて泣いた。デヴィッドは労わるように背を撫でる。クラウディオはしっかりと手を握る。エドガーは優しく頭を撫でる。エヴァニエルは涙が枯れるほどに泣いた。泣けない3人の分も、というように。