姫と姫

エドガーとデヴィッドの真ん中に座っていたエヴァニエルはギルフォードと幼馴染たちが軍事について語っている最中は口を挟まずにただ静かに聞いていた。こくり、と注がれた紅茶に口をつける。ギルフォードが部屋から出て行くとそこには幼馴染たちしか残らなかった。ねぇ、とエドガーの腕を縋るように触れる。

「ゼロは現れると思いますか?」
「さぁ、どうでしょう」
「姫さまは現れて欲しいのですか?」

アルフレッドの言葉にエヴァニエルは頷いた。戸惑うように目を見開く幼馴染を意に介せず窓から見える光景に目を細める。

「・・・ゼロはユフィを殺し、コーネリアお姉さまを傷付けた人間だもの。それに、ダールトン将軍を殺したのもゼロだから」
「姫さま、必ずや我らが仇を討ちます。ですから、姫様は大人しく政庁にお戻りください」

バートの言葉には危険の伴う戦場にいるエヴァニエルを責めるようにも嗜めるようにも聞こえる。彼の真意としては会えることは嬉しいが、いつどんな異変が起こるか分からない場所に彼女を置いておきたくないのだろう。そのため、少々言葉が冷たく聞こえるがそれはエヴァニエルを心配しているがゆえ。それをエヴァニエルは知っているためバートの言葉を素直に聞くことが出来る。が、時には従いたくないこともある。今がそうだ。此処にいれば彼らは自分を守るために前線には出ないでくれる。それは、彼らを死から遠ざけるエヴァニエルが見つけた策。けれど、それは彼らを困らせ、エリア11常駐のブリタニアの軍事力を低下させるという独りよがりな我侭。ぎゅっ、と膝の上に重ねた己の手を音が鳴るほど握り締める。

「姫さま、御手が・・・」

その微かな音を聞きとめたエドガーがそっとエヴァニエルの手に触れる。触れた手は暖かかった。その手の温もりにあの日触れたユーフェミアが甦る。ひっ、と息を呑むエヴァニエルに何事か、と5人の視線が集まる。ガタガタと目に見えて震えるエヴァニエルに全員の顔色が変わる。

「姫さま、如何なされました?」
「医師をっっ」

今まで座っていたソファにエヴァニエルのか細い身体を横たえる。エドガーの手が離れるといやだ、という様に首を振り、エドガーに手を腕を伸ばす。ぎゅっ、と抱きついてくるエヴァニエルの背を撫でるエドガーを見たクラウディオが通信で医師を呼ぼうとしていたデヴィッドに待てと声をかける。

「姫さま」
「や、やだっ」
「姫さま・・?」
「もうユフィみたいにならないでっっ。あ、あんなに冷たい身体にもうっ、触れたくないっっ」