双子と白の騎士02

広場でエヴァとユフィはスザクの帰りを待っていた。ユフィが連れてきた黒猫が怪我をしていたため、その治療道具を買うためにスザクは2人を広場に残して買い物に出ていたのだ。まさか初めて来た地で初めて姉に内緒で外に出るなんて思ってもいなかった。本国にいたころは自分の護衛をしてくれていたグラストンナイツのおかげで不自由なく外にも出かけられた。勿論、姉の許可付きで。しかし、エリア11に来るにあたって彼らは本国で待機の命を受けていた。幼いころから一緒に過ごしてきた彼らと別れるのは初めてで気落ちしていたエヴァを元気付けるためにユフィは脱走計画を立てたのだ。

「買ってきたよ」

彼の手には白いビニール袋。中には包帯や消毒液などが入っている。スザクから袋を受け取ると慣れた手つきでユフィの膝に抱えられた猫の怪我を治療していく。

「上手いね」
「昔、みんなが、怪我してたから。ユフィも、よく転んで、怪我したよね」
「今は転びませんわ」

頬を膨らませながらエヴァに抗議するユフィに2人はくすくすと笑った。

「2人は本当に仲が良いんだね」
「勿論ですわ。エヴァは私の大切な妹ですもの」
「スザクさんには、兄弟は居ないのですか?」
「うん、一人っ子なんだ。だから、兄弟ってちょっと羨ましいな」
「スザクさんはきっと良いお兄様になると思います」

包帯を巻き終えたエヴァが猫の頭を撫でてやる。その様子を見てスザクの頬が緩む。

「スザクさんは猫が苦手なんですか?」
「僕は好きなんですけど・・・・」

そう言いながら、猫に手を伸ばす。が、牙を向けられ引っ込める。

「片想いばかりなんです」

肩を竦めながら諦めたように笑う。

「片想いって優しい人がするんですよ・・・あっ、」

ユフィが笑みを浮かべながらそう言うと、ユフィの膝で寛いでいた猫はぴょん、と膝から飛び降り雑踏の中へと姿を消した。首輪も着いていなかったし、飼い猫では無いようだ。

「残念ですね、エヴァ」
「・・・可愛かったのに」
「エヴァは猫が好きなの?」
「はい。可愛らしいから、好きなの」
 
しょぼん、とした落ちた妹の肩を優しく叩き慰める。治療道具を3人であっという間に片付ける。

「2人はこれからどうするの?」
「私たちは今日が最後の休日だから、エリア11を見て回ろうと思って」
「2人だけでかい?」
「はい」

事も無げに頷く2人にスザクは頭を抱えた。



放っておけないということで、スザクも2人についていくことになり、3人で租界の中をスザクの案内で歩いた。出会ったときは青かった空もいまでは赤く染まっていた。

「ユフィ、エヴァ。時間は大丈夫なの?」
「はい、もう少しあります。・・・・・それでもう一箇所案内して頂けますか?」

畏まった言い方をしたユフィにスザクもそれに応えて礼を取った。

「何なりとお申し付けください、姫様方」
「では、シンジュクに」

思いがけない地名にスザクは伏せていた頭を上げる。真っ直ぐな曇りの無いユフィの瞳とかち合う。

「私たちを、シンジュクに、見せて頂きたいのです」




シンジュクは酷かった。崩壊した建物はそのまま、復興の兆しが見えなかった。そこかしこに花束やおもちゃなどの備え物が置かれている。

「ユフィ・・・・」
「大丈夫ですわ、エヴァ」

左腕にしがみ付いてくる妹を安心させるようにそう微笑む。エヴァもまたユフィの微笑みに安心したのかこくり、と頷くが、左腕にはしがみ付いたままだった。

「出てけよ!ブリタニアの豚ども」
「敗戦国の犬がっ!!」

そう遠くない場所から怒声が聞こえてきた。びくり、と身体を震わせ、ユフィに身を寄せる。ユフィもまたどうしたのか、と声の方向を見やる。声の出所には制服を着たブリタニア人の男子学生2人とイレヴンだろう青年3人が睨み合っていた。

「エヴァとユフィは此処にいて」
「スザクさん?」
「大丈夫だから」

彼の言葉の意味が分からずに首を傾げると、彼は言い争う5人へと走り出していた。彼の後を追おうとするユフィを何とか引き止める。

「エヴァ、離して下さい!!」
「駄目!!スザクさんの邪魔になるだけ!!」

罵声が聞こえる。それはとても聞くに堪えるものではない。駆け出そうとするユフィを必死に押しとどめる。

暫くするとイレブンの青年たちが走り去っていった。彼らが去っていったことを確認すると、ユフィを拘束していた腕の力を緩めた。

「大丈夫ですか?」
「えぇ」
「良かったです」

エヴァとユフィは安堵の息を吐いた。しかし―――

「大丈夫じゃないよ!僕のプライムGとMX4が!」
「遅いんだよ!ったく、名誉のくせに!」

今度はブリタニアの学生たちが怒鳴った。驚き、スザクの背後へと隠れるエヴァ。
自分勝手なブリタニアの学生たちの言い分に段々と腹が立ってきた。

「何で逃がしたんだ!やっちまえよ!どうせ何人もイレヴンを殺してきたんだろう?誰がお前を養ってると思ってんだよ!」


乾いた音が2つ響いた。

「ユフィ!?エヴァ!?」
「これ以上この方を侮辱することは許しません!!」
「彼に、謝ってください!」

2人の迫力に押されたのか学生たちはそのまま逃げ出してしまった。

「駄目だよ、ユフィ、エヴァ。君たちがそんなことしちゃ」
「腹が立たないのですか?」
「腹が立つけど、2人はそんなことしちゃいけないよ」

困ったように笑うスザクに2人は顔を見合わせ、俯く。そして、スザクは辺りを見回す。荒廃したシンジュクに昔のような賑わいは無い。そして、語る。己の想いを。

「大切な人を失わなくて済む、せめて戦争のない世界に、」

エヴァの心の中にいろんな人の姿が浮かんでくる。
姉。ダールトン将軍。ギルフォード卿。グラストンナイツ。みな軍人として戦争を行っている。いつ死ぬか分からない身。

「スザクの望む世界に、なったらいいのに・・・・」

そうしたら誰も死なないのだから。みんなが戦場へと向かう後姿を見なくて済むのだから。