こんなに愛するのは、後にも先にも此れが最後

将臣から殿を任された経正と***は必死の思いで敵軍を押しとどめる。しかし、しかし、圧倒的な物量差は時間と共に平家に敗色を促してくる。舌打ちを打ちながら向かってきた敵兵の額にナイフを投げる。そのとき、馬の嘶きが聞こえた。戦場ではよくある音。ただその時***は絶対にそれを見なければならないと感じた。そして、それに従った***は己が一番恐れていた瞬間を目の当たりにした。スローモーションで馬から落ちていく人間の姿。空蝉でその人間が地に伏せる前に辿り付き、受け止める。

「経正っ、経正」

げほり、と血を吐く経正に取り乱す***。止血しようと傷口を見ると、致命傷を受けていた。言葉を失う***の頬に最後の力を振り絞って経正が手を伸ばす。

「済まない、***。先に逝ってしまうことを許しておくれ」
「い、嫌だ、僕も一緒にっ」 
「***、頼みがある。敦盛を、あの子を助けてやって欲しい。可哀想なあの子を…」
「…それが経正の願いというのなら僕は命に代えても実行するよ」
「そうか、ありがとう…***」

経正は安心したように笑顔を見せると***の腕の中で息を引き取った。ポタポタと***の頬から涙が零れ落ちる。

「あはは、泣いたことなんて無かったのになぁ」

強く強く経正の遺体を抱きしめる***の背に源氏の兵士が刃を向ける。が、それは1本のナイフによって止められた。

「うふふふふ、僕の名前は【虐殺魔術(ジェノサイドウィザード)】。今から皆様に殺戮手品をお見せいたしましょう。観客?それはあなた方です。そろそろ開演時間です。どうぞお席にお着きください。さぁ、零崎が開幕します」





***は冷たくなった経正を抱えて戻ってきた。経正の遺体は清盛の手に渡された。怨霊にするのだろうが、***は信じていた。経正は戻ってこない、と。

「***…」
「将臣」
「済まない…」
「何故謝る?」
「俺が指示したばかりに…」
「…僕は何年も最高級の策師の下に居た。だから、良い命令と悪い命令は分かるつもりだ。今日の君の命令はあの状況下では一番良い選択肢だった」
「だけど…」
「将臣、割り切れ。此処は戦場でお前は指揮官だ。そして、僕や経正、知盛、重衡、惟盛はお前の駒だ。駒が1つ無くなったくらいで泣いていたら指揮官失格だ」

反論しようと口を開いた将臣は言葉を途中で飲み込んだ。***が声も上げずにひっそりと泣いていたのだ。将臣はそっと***を抱き寄せる。***はそれを拒絶もせずにただ将臣の腕の中で縋りつくこともせずに声を押し殺して泣いた。